第70話 古の記憶
ここは、なんだ?
『エリア様、それは如何なものかと』
『これは神である私の決定であり、人間の願い。真の平和を望む者たちの願いです』
跪いているのはサタン、か?
金色の羽根に緑の瞳と頭上に浮かぶ光の輪。
天使というに相応しい姿。
なぜこの天使がサタンとわかるのか、自分には分からないが、サタンである事はわかる。
『サタン、貴方は私と、そして願う人々の意志を否定するのですか?』
真っ白く長い髪と金色の瞳。
女神に言われて信じない者はいないだろう。
淫美な身体付きでありながら色気を感じさせない神聖なオーラを纏っている。
『人間からの願い、我ら導かねばならないのは確かにそうでございます。しかし、エリア様の干渉はいささか過ぎると思われます』
干渉?
なんの事なんだ?
『人間は絶望に立ち向かう勇敢な者を求めているのです』
女神エリアが水晶に写した映像を見せた。
いくつもの村や町、人々が魔物に襲われている。
為す術もない者たちは喰い千切られ、死を呪って朽ちていく。
『お言葉ですが、この現状を創り出したのはエリア様ご本人ではございませんでしたか?』
『私はただ、下々の民に神秘なる力の一旦を与えただけの事。その力の制御を誤り、世界に魔物が生まれてしまっただけの事です』
魔物の誕生の根本の原因は女神エリア?
薄汚れた笑みで言い訳をしているという事は、女神エリアがこれ自体を仕組んでいた?
『それをかなりご熱心に観察されているではありませんか?』
『人間はそれぞれの正義という言い訳を武器に他者を蹴落とし殺します。信じる正義のみを押し付ける者。このグラルバニアの民たちは皆、女神エリアを信じ、それでさえも殺し合う』
玉座に座り足を組みながら悠々と話す女神エリア。
『ニライカナイでは、私の他にもいくつもの神が居るというのに、グラルバニアの者たちはいつまでも外を見ようともしない。世界の全てを観ようともしない……愚かな者たち。未知なるモノに触れ、未知なる者たちともっと交流するべきなのです』
ニライカナイ?
いくつもの神?
世界の全て?
グラルバニアの大陸の他にどれほどの世界が広がっているんだ?
『それは勇者を召喚する事と関係はありません』
『いいえ。勇者とは神の遣いの象徴であり民の希望そのもの。あらゆる困難を跳ね除けられる力そのもの』
それが勇者の力。
ああ、そういえば最初にみんなで集まった時にそう誓ったんだ。
どんな困難も、愛する民の為に討ち滅ぼそうと。
みんなで笑って暮らせる世界にしようと。
『そして皆は改めて思うでしょう……』
そして女神エリアは不敵に笑った。
僕はその顔に心底鳥肌が立った。
『女神エリアを除く神は邪教だと!エリア教信者は今一度思うでしょう!世界を知り、再びエリア教の素晴らしさを広め、そして私は世界を見守る全知全能の女神エリアとなるのです!』
女神エリアの目的は魔王を倒す為に勇者を召喚した訳ではなく、世界に進出しさらにエリア教信者を増やす事。
その為に起こる争いは問題ではない。そう言う事か。
『エリア様!それは目的と手段が入れ替わっています!それでは……』
『サタン、お前は私の邪魔でしかない』
膝くサタンを見下ろして手をかざす女神エリア。
慈愛も慈悲もないその表情に、僕は絶望した。
女神がしていい顔などではなかった。
『そこまで下界の者共が好きなら、お前もその住人となるがいい。女神エリアの名の元に、守護天使サタンの天使権限を破棄する』
女神エリアの顔を穴が空くほどに睨みつけるサタンと、鬱陶しい邪魔者が消えて嬉しい女神エリア。
サタンの天使の輪は黒く変色し解けてなくなった。
金色の羽根は真っ黒になり神々しさを失った。
突如空いた大穴に堕ちていくサタン。
『守護天使サタンを裏切り者の堕天使として刑を執行する』
サタンの深い悲しみと怒りだけが、僕を支配した。
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