第55話 勇者side 結界結晶石
勇者一行は待ち構えていた。
待ち構えるしかなかった、というべきか。
ただでさえ勇者の負傷により遅れた血炎術式にさらに馴染むのに時間を要したのである。
「王様よぅ、兵士はどうなってる?」
血炎術式を使用して以降のアルトは酷い人当たりになった。
粗雑であり、勇者というにはカリスマ性が無く、荒んだ荒くれ者という方が近い。
「既に配置済みだ」
「けどこれ、兵士を西門前に固めてるけど、そこだけでいいの?」
ルエナも以前と比べると王様に対しての態度が軽い。
血炎術式の影響は人格すら捻じ曲げるような力なのである。
「問題ない。日食が始まってようやく魔王は動き出せるようになる。大規模の魔物の大軍を送り込む場合には結界周辺に近い森付近にするはずだ」
最も王都に近く、なおかつ体力の魔物がいても間を隠す事もできる。
「俺たちは王城待機でよろしいのでしょうか?」
ルークも、どこか堂々としているように見える。
以前の葛藤などはどうでもよく、心の問題の解決より根本的な問題の解消につとめようとしているようでもある。
以前のアルトとほぼ同じと言ってもいいだろう。
「問題ない。アスミナの転移結界でお前たちくらいならすぐにでも移動ができる。こちらで判断してから移動の方が無駄がない」
本来であればこの日を迎える前に幹部の城を全て落とし、魔界に乗り込み魔王を駆逐する。
これが最も被害が少ない方法であった。
「おい、アスミナ様ぁどこいった?」
「結界結晶石の点検をしておる。時期にこちらに戻ってくるであろう」
大陸全土に渡るグラルバニア王国は王都を始め、商人の街アルニーテや傭兵の街カルバトラスなどの都市には大規模結界が施されており、結界結晶石がその核として機能している。
王都の結界結晶石を通じてその他の街へと術式が連結して展開されている。
「国王様!緊急事態で御座います!王都周辺全包囲に渡り魔物の大軍が突如出現!」
「なんだと?!」
「おい伝令、数は?」
「目測で10万で御座います!」
「結界はどうなっているのだ?!」
「結界の内側から突如として現れた模様!兵の配置はどうすれば?!」
「……早い、早すぎる!まだ日食が始まってすぐではないか?!」
「おい!アスミナ様を呼んでこい!」
「冒険者ギルドに魔物の殲滅及び魔王軍討伐強制クエストを!」
☆☆☆
アスミナは走っていた。
ローブを深く被り、南門へとひたすらに走った。
路地裏を縫って走り、屋根を音もなく滑っていった。
(ヴィナトさん、結界術式変換が終わりました。現在、南門へと向かっています)
(うむ。お前さんはそのままクロムと合流せよ)
「民を護るために、私は……」
そう呟きながらも、アスミナは心優しかった少年の顔を思い浮かべていた。
クロムに付けられた首元の傷を愛おしそうに摩っていた。
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