心の言葉

「我の道を阻みしものには死を! ハイヤイヤーー!」

人獣の死体の山から飛び出てきたのは、相変わらずハイテンション……いや、完全に目がヤバい状態になってるチャチャだった。

「ちょうどいいや、面白いのが現れたし」

え、まさか……チャチャと戦わせるんじゃないだろうな!?

とは言ってもなあ……俺もちょっとこの二人の戦いを見てみたい気もするし。死なない程度にな。

っていうかこいつ観戦って……見えるのか?

「空気の流れから足音、動く際の風の流れ。目が見えなくても別にどうということはないさ、でも……唯一、文字を読むことだけは無理なんだよね」

わかる。紙に書かれた文字は見えなきゃ判別すらできないしな。


と会話していたのもつかの間。勝負は一瞬でついた。

飛びかかったチャチャを、ガーナザリウスはまるで羽虫を払うかのようにぺちっと。

しかしすごい力だ……土壁にめり込むほどに叩きつけられたチャチャはその状態で気を失っていた。まあしばらくすれば正気に戻るだろう。

「さて、準備はいいかいラッシュ?」

「いつでもいいぜ、問題ない」まだ意識を取り戻さないチビをヴェールに預け、俺はガーナザリウスのところへと足を進めた。

まだリングの周りには炎が燃え盛っている。闘技場みたいだな。いい演出だ。

しかし、あいつ武器持ってないけど……大丈夫なのか?


と、ヴェールたちが来た穴の奥からまた一人、誰かが走ってきた。

「ここにいたんですかい! ってラッシュまでェェェ!?」

相変わらずの間抜けな、かつ憎めないゲイルが現れた。

「遅いぞゲイル、あれは持ってきたんだろうな」

もちろんでさあ! とあいつは布に包まれた長い剣のようなものをガーナザリウスに放り投げた。

無言で手にする……‬が、奴のほうは一向に剣を抜こうとはしない。手にした状態なままだ。


ーお前か。

対峙した時だった。突然俺の頭の中に、例の頭痛のような、それでいて声に似たものが聞こえた。

ーお前が、私をここへ呼んだのか。

声の主……‬そう、目の前にいるツギハギ野郎のガーナザリウスだ。

「いや、俺じゃない。あっちにいる真っ黒い毛のチビだ」親指で後ろにいる観戦者を指す。

ーなるほど。つまりお前は……‬

と、奴はその干からびた顔をぐいっと俺に近づけた。

生気のない空洞の如き眼窩の奥には、赤く光る眼らしきものがぽつんと。しかしそれも左目だけだ。

おおよそ鼻息とも言い難い呼気は、吐き気を催すくらいの腐臭。歯磨いてるのか?


赤く光る目が合った直後だった。その光が妙に細まったように見えた。笑っているのか……‬?

ーそうかそうか、お前が私の子だったのか。

「子供なのか……‬? あの連中が勝手にそう呼んでるだけじゃねえのか」

ーいや、同じ黒衣の血を持つもの。私には分かる。

「あいつらは、アンタと戦うことで自我が蘇るって言ってたけどな」

ーうむ。察しの通りだ。今はまともに話すことすら、思うように身体を動かすことすらできぬ。

「そっか、だからこうやって頭の中で話しているわけか」

そうだ。と腐臭を放つ始祖は軽くうなづいた。

ーあやつも話していたであろう。私をここに戻すには、お前と戦わねばならぬということを。

「ああ、だから俺はここに来たんだ。あいつらは俺が負けるって抜かしてたがな」


こくりと、干からびた頭がまたうなづいた……‬こいつもまた確信しているのか? 俺の敗北を。

ーならば、試してみるか?

「あア? そりゃ一体どういう意味だ」


ガーナザリウスはその妙に後ろに曲がった足で地面を慣らし始めると、両手を大きく広げてこう言った。

ー今から私に斬り込んでこい。一つでも傷を与えることができたのなら、こちらの負けを認めよう。

だが奴は剣を抜かぬまま。いや……‬まだ巻いた布すら解いていなかった。


この野郎、俺をバカにしているのか!?

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