黒き衣の真実 4

ネネルが口にしたその言葉。つまり、チビの両親は生きているということか!?

涙が出そうになっちまった。ずっとチビの親は死んでいたものだとばかり思っていたから。よかった……!

「お主も聞いたことがあると思うが、オコニドは我がマシャンヴァルに救いを求めた際、姉であるゼルネーは見返りとして王の血を求めたのじゃ。極上の、それも旧リオネングの血を引いているのだからこれ以上のものはない」

「で、お前のねーちゃんと王様との間にチビが生まれたってことか……」

だが、と一拍おいてネネルは続けた。

「その後、オコニド王の消息はどうなったかは分からぬ。血は大事だが命は毛ほどにも思わぬ姉上のことじゃ。恐らくそのまま貪り食ってしまったかも……な」

まあしょうがないか。こいつだって生きるためにエセリア姫を食った前科があるのだし。そのことについてあまり俺は驚きもしないが、ちょっとショックは隠せなかった。


「妾はまだこの稚児が生まれて間もないときに会ったのじゃ。姿形は変わってはいても、この身に染み付いたマシャンヴァルの匂いは覚えておったのだろう」

初対面だっていうのにチビはネネルにすっかり懐いている。ある意味俺とチビが初めて会ったときくらいに。そう、この二人は血縁関係にあったんだ……だったらチビを返すことだって。

「チビを母親に会わせることはできるのか?」

だがネネルは俺の言葉に大きく首を横に振った。一言「やめろ」と。

「最初に言わなかったか、ゼルネーはマシャンヴァルの女王。すなわちこの国……いや世界にとっての仇敵であることを。どんな理由があったかは分からぬが、恐らく誰かがこの稚児の身を案じてあの国から連れ出して逃亡したに違いないはず。妾だってそうしたいさ」

「身を案じて……ってどういうことだ?」

「マシャンヴァルの純なる血と旧王族の血が交わること……それはこの世界の存亡にも繋がることかもしれんのじゃ」


うん、スケールデカすぎて全然分からなくなってきた。いきなり世界って言われても、なあ。


「うん、えっと……要約するとこの稚児は新たなるマシャンヴァルの王になるべくして生まれた子なのだ。それがいかに危険なことだか分からぬとは言わせんぞ。その片鱗をお主も垣間見たであろうが」

言われて思い返してみた。

つまりは、パデイラでチビが何者かに憑依されたような状態に陥ったのも、つまりは……!


「稚児の精神はまだ素の状態なのじゃ……誰にも染まっていない反面、誰の手にも染めあげることができる。ダジュレイに致命傷を与えた件の力は妾にも分からぬが、恐らくはマシャンヴァルの侍者の一人であることは確かだろう」

「侍者って、つまりダジュレイみたいなやつが他にもいるってことか?」

「ああ……それがお前の使命じゃ。東の地に根を下ろしているズァンパトゥに会え。」

ズァンパトゥ!? また舌を噛みそうな名前が出てきたな。

「あやつはダジュレイと対をなす存在。大地を腐らす血もあれば、蘇生させる血もある。つまりはそういうことじゃ」

言ってる意味はさっぱりわからねーが、つまりはそのパトってやつを倒せばこのリオネングの地面も元通りになるってことか。

「愚か者。殺すのではない。請うのだ」


そう言ってネネルは、近くの机の中にあったナイフを手に取ると、おもむろに自身の長い髪をひとつかみ切り落とした。

「これをズァンパトゥに見せろ。稚児は分からなくともこの髪が使者としての証明になるはずじゃ」

軽く束ねた髪を、くるくるとチビの腕へとまるでブレスレットのように巻きつけた。


「もう、余計な血など流してもらいたくはないしな……」


……ってオイ、チビも連れていくのか!?

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