教会の四人

ー翌朝。


まだ朝もやの残るディナレ教会の古びた入口の前に、二人の対照的な獣人が立っていた。

一人は黒い毛並みの大柄な、そして身体じゅうに傷跡を刻んだ女性。

もう一方は、雪のような純白の毛に身を包んだ男。あまりにも違う体格差を現すかのように、彼は女性の肩の上に立っていた。


「久しぶりだね……ここに来るのも」女の肩に乗った純白の毛の獣人=ルースが、自身の毛と同じくらい白い吐息を弾ませながらつぶやいた。

だが女性=マティエの方は、一切口を開かず、軽くうなづいただけ。


ノックしてしばらくすると、ギィと重くきしむ音を立てながら、教会の大きな扉がゆっくりと開かれた。

黒い法衣に身を包んだ青年が驚きの声を上げた「え、マティエ……さん!?」と。

ようやく、マティエのその性格そのものを見せているかのようなへの字の口が、久しぶりだな、と小さな声で紡がれた。

「アスティ、例の件で話があるんだ……シスターはいるかい?」

ルースに請われるかのように、彼は教会の中へと入っていった。

…………

……

「あわわ、最後に来たのはいつでしたっけ、マティエさん」

急な来客に、教会の責任者、ロレンタがいそいそと着替えて現れた。

「もう5年は経ったか……あの頃はまだ公私ともにバタバタしていたものな」そうだね、と隣に座った小さなルースも微笑む。

「感謝します、マティエさんのおかげで、唯一残ったこの教会も潰されずに済んでいるのですから」

アスティの一言に、マティエの瞳が鋭く光った。だがそれは決してアスティの言動に対してではない。

「ここにもエナルドの手が……来ているのか」

「嫌がらせとかは一切ないですけどね、けど獣人を崇拝しているのと人間を祀っているのとでは、やっぱり後者の方にひとが集まるのは明らかですし」

ストレートすぎるアスティの辛辣な答えに、ルースもしょうがないよね、と合いの手を入れて苦笑いした。


「で……今日は一体どのような用件で来られたのでしょうか。こんなに朝早くから来るだなんてちょっといつもとは……」

マティエはこくりと小さくうなづき、じゃらっと重い音を立てる小さな革の袋をテーブルに置いた。

「これはいつもの寄付金。それと……彼女、マティエにあれをまたおこなってもらいたいんだ」

アスティとロレンタがはっと息を飲んだ。


「秘蹟……ですか?」彼女の声がかすかに震える。


「ああ、マティエにね、ちょっと事情があって」

そう言うとルースは、彼女の腰に下げていたポーチから、大きな石のような固まりを取り出した。

木製の粗末な作りのテーブルに置かれたそれ、大きく曲がった一本の折れた角だった。


「これ……もしかして」

「ああ、私の最後に残された【誇り】だ」


マティエはカールした右の髪の毛をかきあげると、その傷跡にも似た断面をロレンタたちに見せた。

「過去の傷ともう一度向き合いたいのだ……だが忌まわしい記憶ゆえによこしまな念が邪魔をしてしまっている……」


「……お断りします」

ロレンタの非情な一言が、冷たい朝の空気に響いた。

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