新たな仲間

集合場所である城門前に集まったのは、俺を含めてざっと10人そこそこくらいってところか。


どこかから仕事の匂いを嗅ぎつけてきたんだろうか、俺の知らない顔もチラホラ。それに俺同様の獣人も。


驚いたのは、今回のリーダーはあのマティエだってとこだ。そーいやあいつ、以前ここで騎士やってたって話してたか……だからこそリオネングもすぐさま抜擢したってところかな。


この前着ていたあちこちに錆の浮いた中古鎧とは打って変わって、足先の蹄と頭部以外は全部カバーした全身鎧。しかもよくある銀ピカ鎧じゃない。燻して黒くさせた、まさに漆黒の鎧だ。


「おっ、知ってるその顔、あんたラッシュって言うんだっけ?」口元に生えた一対の鋭い牙に突き出した上向きの鼻。なんだっけ、ボア族だったか。こげ茶の毛に身を包んだ、俺より若干背が低めの男が突然後ろから声をかけてきた。

「ああ、お前の方は初めて見る顔だな」あんまりこう馴れ馴れしい奴は好きじゃないんだが……

「へへ、よろしくな、俺っちの名前はイーグってんだ」ヘラヘラと笑顔を浮かべながら俺に握手を求めてきた。あんたに会えてうれしいぜって。


なんでも俺は獣人の傭兵の間でも結構名が知れ渡っているみたいだ。まだ伝説クラスとはいかないみたいだが。

でもってこのイーグってやつも、元は別の国で兵役についていたところを終戦のドタバタでこのリオネングにまで来て、パン屋でも開業しようとしたところに今回の話が来たって寸法らしい。


「金が出ないって話は聞いてるか?」

「ああ、けど一応蓄えはちょこっとはある。ここで少しでも名を売りたいって思ってたしな」

ちなみに家族でここに移住してきたんだとか。奥さんと子供が5人。結構多いな。


「そうそう、この前また身ごもってたんだ。もうすぐなんだ。俺っちが帰ってくるころには生まれるって言ってたぜ、楽しみだな」


ご挨拶程度に死ぬんじゃないぞと肩をポンと叩いておいた。おまじないってモンでもないけどな。


……あ、いけね、こいつの戦歴聞くの忘れた。


「準備はいいか……」静けさの中、感情を押し殺したかのようなマティエの声が聞こえる。

この前のときも近寄りがたい雰囲気だったけど、今回も同様だ。

周りを見下ろし、射すくめるような鋭い目つきに、グッと一文字に結ばれた口。気のせいか、不機嫌そうにも見える。

それに俺はこの前殺されそうになったばかりだしな、あえてイーグと一緒に集団の後ろの方に居ることにした。


「全員揃ったみたいだな。改めてお前たちに感謝をする」

マティエはそうは言うが、そんな顔で言われたって全然感謝とは思えねーんだが。

マティエに変わってまた別の見慣れない騎士にバトンタッチ。あのヘタレ野郎のザイレンじゃなかった。ちょっと安心かな。


話は……ラザトが昨夜話したのと同じ中身だ。でもって今回から名称が変わって、オコニドではなく「人獣」になったんだと。

こいつは一体だけだとそれほど大したことはない。だけどひとたび集団戦となれば……あとは分かるな?

マシューネの軍隊だって初心者の集まりじゃない。そいつらがほぼ全滅にまで追いやられるんだ。相当の数がいるに違いない。

……そうだよな、俺が以前アスティと行った時も、奇襲で俺らくらいしか生き残らなかったんだし。


「死ぬのが怖いのだったらここで抜けても構わん。それは恥ではない」マティエが説明の最後に付け加えた言葉だ。

やっぱり……一斉に回りがざわつく。

「金も名誉も一切我々には用意できない。そして命の保証もな……最後に認められるのは、お前たちの腕前だけだ」


「ラッシュ……俺っち帰りたくなってきちゃった……」イーグの足元が震えている。やっぱりマティエの言葉を聞いて怖気づいたのだろう。

「俺と一緒じゃイヤか?」

「ぶふっ、それ究極の選択じゃねーか」

俺の言葉にイーグは吹き出した。ちょっとでもリラックスさせないとな。あの女の言うとおり、抜けるのは自由だけど。一人でも戦力が欠けるのは痛いし。

「生きて帰れたら、お前ンとこのパン食わせてもらっていいか?」

「おうおう大歓迎さ、お前なら毎日来たって無料食べ放題にしてやるよ」



俺は胸の中で何かに祈った。こいつが無事に戻ってこれますように、って。


……あ、いや、パン無料食べ放題が目当てじゃないからな。ウソじゃないからな!

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