第116話、落としたい相手
王女様に腕を掴まれ、城の廊下を進むガンさん。進まされているのかもしれない。
そんな様子をリーディッドさんは半眼で見ながらついて行く。
リズさんは何時も通りの様子で、兵士さん達も特に変わった様子は無い。
ただキャスさんはちょっと楽しそうだ。キョロキョロしながらついて行っている。
「王城って言うからすっごい煌びやかなのかと思ったけど、結構落ち着いた感じだねー。なんか高そうなツボとか飾りとかも特に無いし、むしろ武骨って感じ?」
『確かに。もっと成金趣味的な内装を想像していた。いや、前に見た城がそうだったせいだが』
キャスさんの言葉に周囲を見回し、言われる通り飾りなどは余り無いと感じる。
前に行った城は何だか色々飾っていて、余り近付かない様にしていた。
だって触ったら壊しそうだし。壊したら怒られてしまう。
「この辺りはそうですね。一応キャス様の想像通りの場所も有りますが、そういった所は一部になっていますね。城の大半はこの通路とほぼ変わりません」
「そうなんだ。前に見た城が凄かったから、ここもそうなのかと思ってたんだー」
「ああ、あの城ですか・・・がっかりされましたか?」
「うんにゃー。私はこっちの方が落ち着くかなー。ただでさえ城って時点で結構派手なのに、何もかもが派手派手だと落ち着かないもん」
「そうですか、それは良かった」
キャスさんの言葉に安心したらしく、ニッコリと笑って応える王女様。
ただ二人の会話を聞いていた使用人さんや護衛の兵士さんは、少し眉間に皴を寄せていた。
少し気になって視線を向けると、すっと目を逸らされてしまったけど。
何だろう。キャスさんと王女様の仲が良いのが嫌なのかな。
少しだけ首を傾げつつ、二人が楽し気に会話を続けるのを眺めて付いて行く。
ガンさんはその間ずっと困った表情で、ただただ王女様に腕を引かれていた。
「こちらをお使い下さい」
そうして案内された場所で、王女様が手をかざしてそう言った。
ただその先に在るのは部屋じゃなくて、城の廊下だ。
廊下で寝ろ、という事だろうか。別に私は構わないけど。野宿でも平気だ。
「えーと、どの部屋を使っても良い、って事?」
「はい。お好きな部屋をお使い下さい」
違った。キャスさんが訊ねなければ、私はそのまま廊下で寝ていたかもしれない。
いや、その前にガライドかリーディッドさんが違うと教えてくれるかな。
「じゃあ私グロリアちゃんと同室ー♪」
「はい。わかり、ました」
キャスさんが私を抱きしめて宣言したので、否も無いし頷いて返す。
リーディッドさんは無言で部屋を開いて、じっと見てから「ここにします」と言った。
ガンさんは少し困った様子だったけれど、気が付いた王女様が部屋を勧めている。
「おー、流石に部屋の中は凄いね。流石はお城の客室って感じ。ここも天蓋付きなんだねー。掃除が大変そうだよね、あれって。上に埃が溜まりそう。おう、べっどふっかふか」
キャスさんは私を抱えたまま部屋に入り、ベッドにボスンと腰掛ける。
部屋の中は確かに廊下と違い、色々と物が置かれていた。
それでも少し落ち着いた感じがする。何となくの感覚でしかないけれど。
「お気に召されましたか?」
「うん、ありがとうねー、王女様」
「喜んで頂ければ何よりです。グロリア様も、ご不満などがあればすぐに仰って下さいね」
「大丈夫、です。ありがとう、ござい、ます」
「そうですか、良かった」
王女様はホッとした様子で息を吐き、にっこりと笑ってそう言った。
友達を家に招くという事で、とても気を使ってくれているのかもしれない。
ありがたい事だけれど、そんなに気にしなくても良いんだけどな。
寝る場所なんて、その気になればどこでも寝れる。さっきも廊下で寝る気だったし。
「では申し訳ないのですが、一旦失礼させて頂きます。お恥ずかしい話なのですが、少々やる事を後回しにしておりまして。またすぐに参りますので」
「はーい。また後でねー、王女様ー」
「ええ、また後で」
王女様がにっこり微笑み、部屋を出て行くのを見届ける。
その後少ししてコンコンとノックの音が響き、リーディッドさんがやって来た。
後ろに護衛の兵士さんが居るけれど、彼等は外に残して入って来た。
「やっほリーディッド。そっちの部屋も良い感じー?」
「流石王城の客室と言った感じですね。少なくとも屋敷よりも良い部屋です」
「そんな事、ない、です。あの部屋は、落ち着き、ます」
リーディッドさんの言葉に、思わず反論をしてしまった。
口にしてからはっと気が付き、やってしまったと視線を落とす。
するとキャスさんにギューッと抱きしめられ、リーディッドさんも頭を撫でて来た。
顔を上げると二人共笑顔で、リズさんも少しだけいつもと違う笑顔に見える。
「グロリアさんにとってはあの部屋の方が落ち着くのでしょうね」
「私も自分の家の方が落ち着くからねー。一緒一緒」
「そう、ですか・・・良かった」
ホッと気を吐いていると、キャスさんに頬をウリウリと擦り付けられた。
されるがままになっていると、リーディッドさんが笑みを消して口を開く。
「やはり王女殿下は貴女も落としにかかっていますね」
「あ、やっぱそう? 魔獣領に居た時から、そうじゃないかなー、とは思ってたんだけどね」
『二人の目からも、やはりそう判断出来るか・・・』
ただその内容は相変わらず、私以外だけが通る内容だった。
一体何の事だろうかと、私だけが首を傾げている。
キャスさんを落とすって一体どこに。そんな素振りなんてあっただろうか。
「命令してなのか、それとも兵士達の意思なのか。どちらにせよ城内で不満を見せる兵士達を使って、貴女に好意を見せようとする腹積もりが見えますね」
「あははー。まあそうだろうねぇ。王女様だもんねぇ。普通に仲良くは無理なのかなー。私結構嫌いじゃないんだけどね、あの王女様の事。むしろ好きかなー」
「ショックですか?」
「んー。どうかな。人それぞれ事情が有るしさー。少なくともあの王女様は、どこぞの古代魔道具の使い手と違って信念あるみたいだしね。それはリーディッドだって同じじゃん?」
「・・・彼女と同じにされるのは流石に不愉快ですね」
リーディッドさんはその言葉通り、不満そうに表情を歪める。
私は少し不安になってしまったけれど、キャスさんは逆に楽しそうだった。
「あー、ごめんごめん。解ってるよー。お友達の事大好きな可愛い子だもんねー、リーディッドちゃんは。よーしよしよしよし。おー、良い子だぞー」
「やめなさい。こらっ、もうっ!」
キャスさんは楽し気にリーディッドさんを撫でまわし、逃げる彼女を更に追う。
途中で諦めたリーディッドさんは、暫く撫でられ続け頭がぐちゃぐちゃになっている。
ただその様子を見ていたリズさんは、物凄く優しい目を向けていた。
「まったく・・・これでもちゃんとセットしてるんですからね」
「あははー、ごめんごめん」
『仲が良いな、全く』
リーディッドさんが睨んで言うも、キャスさんが堪える様子は無い。
むしろ二人共少し楽しげに見えるのは気にのせいだろうか。
ガライドが仲が良いというのであれば、多分気のせいじゃないと思う。
「どちらにせよ、キャスに価値を見出しているのは間違い無いでしょう。万が一何かあったとしても、彼女は全力で貴女を守るとは思います。ただしなるべく一人にはならない様に」
「りょーかい! じゃー私は大体グロリアちゃんと一緒に居るね!」
「それが良いでしょうね。グロリアさんも宜しいですか?」
「はい、解り、ました」
色々と良く解っていないけれど、兎に角キャスさんと一緒に居れば良い。
それだけ自分の心に刻み付けて、ふんすと気合を入れて応えた。
『・・・流石にもうグロリアに絡む馬鹿は居ないか・・・いや、解らんな』
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