第113話、王子
門では前と同じ様にリーディッドさんが一回降りて、少ししてすぐに戻って来た。
そして門の扉が開くのかと思ったら、扉の片側の真ん中が開いた。
よく見てなかったから今更気が付いたけど、門の扉に更に扉が付いている。
「ねえリーディッド、もしかしてこの扉開かないの?」
「開きますよ。ただ開ける程の事が無い限り、小さな扉を使うだけで。人通りが多い時期は開け放ってますよ。今は少々時季外れなのでこの様子ですけど」
「ふーん」
キャスさんは自分で訊ねておきながら、返事には余り興味が無さそうな感じだった。
ただ視線が街中に向いていたから、単純に街を見たかっただけかもしれない。
街に入ると人通りはそこまで多くはなく、むしろここまでの道中の方が多い気がする。
「・・・人が、少ない、ですね?」
「この辺りは今住人が居ない家が多いからでしょう。居るのは家の管理を任された者か、掃除の為だけに出入りする者ぐらいですね。用が無い限り平民はこちらには来ないでしょうし」
「大きな家、多いのに、住んでないん、ですか・・・」
領主館と同じぐらい大きな家が幾つも有るのに、人の気配を殆ど感じない。
折角沢山人が済めそうなのに、人が全くいない家。
何だかそれらを眺めていると、寂しく感じるのは何故だろう。
「あ、人がいっぱい、居る家も、ありますね」
「そうですね。普段からそこそこの人数を住まわせて管理させている家も有ります」
車が走っているからずっとは見れなかったけど、明るい気配の家が在った。
他の家と違って暖かい感じがして、見てて少しほっとした気持ちになる。
「娘や息子を王都に住まわせてる家や、人を多く雇っているんだと見栄を張る為とか、いろんな理由で人が多く住んでいる家も有りますので、流石に全く人が居ないって程ではないですよ」
言われて少し注意して見ていると、確かに人の気配が多い所が幾つかある。
けれどやっぱり殆ど場所で人は少なくて、まるで森の中にでも居る気がした。
街に居るのに人里に居る気がしない。だからちょっと寂しいのかもしれない。
「ぶー、この辺りつまんなーい。これなら私は普通の門から入りたかったなー」
「後で行けば良いでしょう。どうせ自由時間は有りますよ。私とキャスとグロリアさんは」
「待って。ねえなんで俺外されたの。俺まさか自由時間無いの?」
『呼ばれた理由を考えれば、その可能性は大いにあるだろうな』
ガンさんの不安そうな問いかけに、二人は目を逸らすだけで応えなかった。
そして彼はその視線を私に向けて来たけど、私にもその答えは存在しない。
ガライドは肯定しているけれど、だからと言って肯定するのも何だか悪い気がする。
結果同じ様に不安な顔を返すだけしか出来ず「うん、ごめんな」と謝られてしまった。
「全く無いとは思いませんが、基本的に王女様が付いて回ると思っておきなさい」
「えぇ・・・街中に王女様って大丈夫なのかよ・・・」
「護衛が隠れて付いているでしょうし、貴方が居るから問題無いでごり押すでしょう」
「・・・なあ、俺の弱点、喋った方が良いかな。でないと危ないだろ」
「止めておきなさい。少なくとも今は悪い方にしか作用しません」
「・・・解った。黙っとく」
『弱点・・・索敵の力の低さの事か』
そういえばガンさんは魔獣の位置を上手く探れないんだっけ。
勿論潜んでいる魔獣に限るけど、それでも解らないのは弱点だと思う。
だって私でも、近ければガライドに頼らなくても解るし。
「城も最近見たせいで新鮮味が無いなぁー。あんまり違いも無いしー」
「エシャルネさんの、住んでる、所の方が、大きい、ですね?」
「はいはい、そろそろその城の門に到着しますよ」
「とうとう着いちまうのか・・・」
『ガンだけ絶望感が溢れているな』
それぞれの感想を口にしながら、城の門へと車が近付いて行く。
近付くにつれてゆっくりと速度が落ちて行き、門の前で車が止まった。
ただ今度はリーディッドさんが下りる事はなく、門の扉が開かれ中へと通される。
暫くトテトテと犬達がのんびり歩くペースで移動し、城の出入り口らしき所で止まった。
「さて、降りますよ」
「今更だけどさー、私本当に付いて来て良かったの、リーディッド」
「本当に何を今更。王女からの招待状にはキャスの名も有ったのを見たでしょう」
「まーそうなんだけどねー。ほら、私は皆と違ってなーんにも出来ないし」
「気にする必要はありませんよ。そう思ってるのはおそらく貴女だけでしょうし」
「そっかな。まいっか。解ったー」
キャスさんはまた自分が訪ねておきながら、最後は興味が無さそうに頷いて返した。
ただ彼女が何も出来ないなんて事はあり得ない。彼女の索敵能力は凄いし。
一度ガライドが興味を持って、何処まで解るのか聞いて欲しいと言われた。
キャスさんはその願いに快く応えて、結果ガライドの「マップ」と同じぐらいだと解った。
私は流石にそこまで解らないし、他に出来る人はあの街には居ないみたい。
だから凄い事だと思ってるんだけど、キャスさん自身はあんまり凄いと思ってないみたい。
『いやぁー、索敵出来た所で、逃げるのが精々だからねー。強い魔獣と会う前に逃げるぐらいにしか役に立たないじゃん。私基本後ろで弱っちい魔法放ってるだけだし。それにどれだけ広くたって、歩いて近づける距離じゃないなら特に意味ないじゃん?』
なんて言っていた。私にしてみれば、自力で魔法を放ってるのも凄いんだけどな。
だって私闘技場で戦っている間は、一度もあんな事出来なかったし。
今魔法の真似事の様な事が出来るのは、全部ガライドを身に着けているおかげだ。
因みにリーディッドさんも索敵範囲は凄く広いけど、キャスさんより小さかった。
彼女曰く、本気を出せばキャスはもっと精度を上げられる、との事らしい。
そこまでやる意味も無いしー、という感じでキャスさんは言っていたけど。
そんな事を思い出しつつ、車の扉が開かれ降りて行くリーディッドさんに付いて行く。
外に出て周囲を見回すと、結構な数の兵士さんらしき人達が静かに立っていた。
ただその表情に、少し不服そうな気配がある人が居る。一体何故だろうか。
「ようこそおいで下さった。魔獣領の姫に、古代魔道具の使い手よ」
そしてその兵士さん達が私達を警戒し、声をかけて来た人を守る様に立っている。
彼は一体誰だろう。それに何でこんなに警戒されているんだろう。
・・・王女様、何処かな。もしかして今いないのかな?
「殿下、私を姫などと呼ぶのは止めて頂けませんか」
「だが貴女はまさしく姫だろう?」
「本物の王子様に言われると、馬鹿にされている様にしか感じない性格ですので」
「ふふっ、相変わらずだね」
『王子か。ふむ、見た限り前に会った小僧よりは話が通じそうだな』
王子様。この人王子様なのか。ならきっと偉い人だ。
そう思ってしまったからか、無意識にガンさんの後ろへ隠れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます