第81話、自分だけ
領主さんとのお話は、特に何事もなく終わった。
というよりも、私には良く解らない会話がちょっと多かった。
なので余り理解出来ないまま、気が付いたら終わっていたというのが正しい。
私にも確認を何度かとられたけど、とられても状況が良く解らないから困る。
取り敢えず「良いですか?」という問いに全部頷いて返しておいた。
一応その度にガライドに確認を取っていたから、きっと駄目な返事はしていないはず。
それにリーディドさんはニコニコしているし、きっと問題無いと思って良いのだろう。
もし何か問題が有ったなら、途中でガライドの注意が入ってるだろうし。
「いやー、流石領主様は太っ腹であらせられる。しっかり出して下さいましたね」
そして部屋に戻ったリーディッドさんは、ご機嫌な様子でお金を数えている。
因みにギルマスさんは彼女に感謝の言葉を送って帰って行った。
後凄くすっきりしたとも、また領主との交渉が有る時は呼んでねとかも言ってたっけ。
ただ嬉しそうな彼女とは裏腹に、キャスさんとガンさんは少し呆れた顔だ。
「良く言うよねー。リーディッドが脅して出させたようなもんじゃん、アレ」
「領主の頬引きつってたよな。まさかあんな要求されると思ってなかったんだろうなぁ」
『ギルドが出すはずの報酬まで領主が出す事になったからな。謝礼を渡す気は有ったのだろうが、その数倍の金を出す事になるとは思っていなかったんだろう』
脅していた、のかな。でもリーディッドさんの言ってる事を、領主さんは認めてたよね?
ならお互い納得している訳だし、それなら気にしなくて良いんじゃないかな。
「金で貴族の面子を買えるのですよ。喜んで出して頂かなければ。私達はギルドの要望に応え、けれど領主の娘が陳情に応えて率先して魔獣を倒した。そういう事になったのですから、ギルドで本来貰うべきだった報酬も領主が出してくれて当然でしょう」
「それに関してはギルマスも中々良い神経してるよな。リーディッドの交渉に乗っかって報酬額告げたと思ったら、状況や仕事の結果を考えてとか言って更に額を上乗せしたし、色を付ける約束をしていたので譲れませんとかさ」
「アレは仕返しだよね、完全に。顔はにっこにこしてたけど、領主にムカついてたんだよ」
『・・・そうだろうな。ギルマスにしてみれば、手遅れな状況を何時までも待っていなければいけない、といった気分だったろうからな。動いてくれない管理者に怒りも覚えるだろう』
ギルマスさん、怒ってたのか。それにしては随分ニコニコ笑顔だったけど。
やっぱり偉い人の表情と会話と考え方は私には全然解らないなぁ。
リーディッドさんですら、時々笑顔が怖い時があるし。
「つかさ、今回はリーディッドが稼いだ金じゃないんだから、そんなに嬉しそうに金勘定してるのもおかしいと思うんだけどな、俺は。それ実質全額グロリアへの報酬みたいなもんだろ」
「そうだよねぇ。今回私達本当に何もしてないもんねー」
「私は交渉しましたよ。二人と違って仕事はしています」
「あ、酷ーい。余計な事言わない様に黙ってただけなのにー。ぶーぶー!」
「まるで俺達が何も考えてなかったみたいじゃねえか」
「実際普段から交渉ごとは私に押し付けるじゃないですか、貴方達。今更何を言うんですか」
『・・・まあ、確かに、リーディッドが居た事で助かっている点は多いな』
私もガライドとリーディッドさんの言う通りだと思う。
交渉とかは大体彼女に任せているし、私には出来る気がしない。
さっきの領主さんとの話し合いだって、何を言ってるのか解らない所いっぱいあった。
もう最後の方は、美味しいお菓子をもしゃもしゃ食べていた記憶しかない。
ガライドが何か色々補足してくれていたけど、殆ど覚えていないし。
難しいお話をする時は私の前に食べ物を置かないで欲しい。
「ま、冗談はこの辺りにして・・・勿論報酬はグロリアさんにお渡ししますよ」
「え、で、でも、皆で、お仕事に、向かったから、何時も通り、皆で、分けるんじゃ・・・」
「普段の仕事ならそうでしょう。事前情報無しで共に受けたのであれば、危険な調査に臨んだ分、私も喜んで分け前を受け取りましょう。ですが今回の件は、グロリアさんが戦う事、が前提で受けた仕事です。貴女が万全に受けられる様に、私は少々口を出したにすぎません」
『グロリア。受け取っておけ。金は持っていて困る物ではない』
「・・・わかり、ました」
リーディッドさんとガライドに言われ、本当に良いのかなと思いつつ頷く。
とはいえ私の財布に入る量じゃないから、リズさんに預かって貰う事にした。
領地に帰ったら、他に預けている分と一緒に金庫に入れておくとの事だ。
「ほんとに、良いのかな・・・」
それでもまだちょっと、本当に良いのか不安だ。だって初めての事だから。
今からでもやっぱり皆で分けよう、って言った方が良いんじゃないかなって。
『グロリア、気に病むのであれば、使い道で悩めば良いんだ』
「使い道、ですか?」
『ああ。その報酬をどう使うかはグロリアの自由だ。三人が受け取らない事が気になるというのであれば、三人の為に使うべき日が来た時の為に置いておけば良い。そして必要な時は躊躇無く使うんだ。どうかな、受け取るに足る理由にはならないか?』
「・・・わかり、ました」
そんな日がいつか来るんだろうか。もしかしたら来ないかもしれない。
けれどその日が来たら、一切の躊躇など無くこの金を使おう。
むしろ皆がそれで喜んでくれるなら、私は金なんて要らないし。
「どうやらグロリアさんも納得してくれたようですね。良かった」
ガライドに頷いて返していると、リーディッドさんがそう言ってにっこりと笑う。
「まあ、私としてはこの街のギルマスに大きな恩を売れましたし、領主にまた貸しを作る事が出来ました。報酬を払えばチャラになる訳じゃありませんからね。何よりもあの娘が魔獣を倒せなかった、という事実を黙っておく点が大きいでしょう。くくく・・・」
「うわぁ・・・」
「これだよコイツ・・・」
ただその後、ちょっと悪い笑み? になってしまったけど。
『・・・リーディッドは自分で台無しにしていくな・・・わざとか?』
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