第77話、植物の戦い

「食べ終わり、ました。次、どうしま、しょう、ガライド」


 飛び散った花を全て食べ終わり、地面から少し出ている魔獣を見ながら訊ねた。

 この魔獣はまだ生きている。視界の『レーダー』の紅い光がそれを教えてくれている。

 花を完全に砕いても生きている以上、確実に倒す為にガライドの意見を聞きたい。


『そうだな・・・そういえばグロリア。臭いは大丈夫なのか』

「・・・すんすん・・・臭い、感じなく、なって、ます、ね?」

『強烈な臭いを嗅ぎ続けた事で嗅覚がマヒしているのか。解毒は出来るのに、機能不全は起きるのだな。いや、グロリアの事だ、体が本能的に『そうした方が良い』と判断したのかもしれん』


 良く解らないけれど、臭いを感じないなら都合が良いと思う。

 あの臭いをずっと嗅ぎながら食べるのは、流石に私も辛いと感じるし。


『臭いを感じんのであれば好都合だ。おそらくこの魔獣は根が生きていれば再生が可能なのだろう。ならばやる事は単純。根も全て引き抜いて食らえば良い。何時も通り、いや、何時も以上に全てを食らうんだ。跡形も残さず食らい尽くしてやれ』

「わかり、ました・・・!」


 花が咲いていた所に近付き、地面に埋まっている部分を掴む。

 そして全力で引き抜こうとして、少し抜いた所で力強い抵抗を感じた。

 視界に根が土を掴む様子が映る。引き抜かれない様に抵抗している。

 という事はガライドの言葉が正しいんだ。ならこのまま全て食べれば良い!


「あぐっ、もぐもぐ、んっく。がぶっ」


 掴んでいる所より上の部分を食べる。食べ尽くしたらまた引き抜く。

 食べる度に、紅い汁を浴びる度に、少し体が痺れるけど問題は無い。

 ただ引き抜く度に抵抗が強くなっていく。地面が揺れている気もする。


『本気で抵抗し始めたな。流石に不味いと思ったらしい』

「なら、もっと、力を、入れます・・・!」


 腰を落として歯を食いしばり、背中の力を意識して全力で引き抜く。

 ズルリと引き抜いた魔獣を食べて、食べて、食べ続ける。

 すると食べている途中で、引き抜いていないのに地面が揺れ出した。


『むっ、これは・・・グロリアっ』


 ガライドの叫びと同時に、視界に私の後ろの光景が映る。

 多分ガライドが見ている光景だろう。前にもこういう物を見せて貰った。

 魔獣の根が地面から飛び出し、その先が私に向かって来ている。

 こんなに早く動けたんだ、と思いながらその根を掴んだ。


『・・・当たり前の様に対処されると、少し焦った私が恥ずかしいんだが。というか何時もの事ではあるのだが、戦闘面に関しては本当に私が要らないな』

「見えて、いたから、楽に、掴まえ、ました。それに、この魔獣を、倒せるのも、ガライドが、居るから、です。ガライドは、要り、ます」

『そうか、そう言って貰えるなら何よりだ』


 背後からの攻撃でも多分反応は出来たけど、ガライドのおかげでもっと早く反応出来た。

 それに普段だっていっぱい助けてくれてる。なのに時々ガライドはこういう事を言う。

 何時も言ってるのにな。ガライドが居るから私は立って戦えるって。


「ふっ!」


 取り敢えず今は戦闘に集中しよう。

 捕まえた根を引っ張り、全てを地面から引っこ抜く。

 攻撃する為に地上へ出てきていたからか、簡単に引っこ抜く事が出来た。

 とはいえこの根も魔獣の一部。他の根も全部同じ様に引き抜かないと。


「食べ残しは、直ぐに、教えて下さい。あむっ」

『ああ、任せておけ』


 そして引き抜いた根に齧り付き、けれど抵抗する様に手元で暴れる根っこ。

 ここは食べられたくないんだ。ならやっぱりガライドの言っていた事が正しい。

 両手で根を握り込んで、ついている土ごと全てを食らって行く。


「っ、にがし、ません・・・!」


 その途中で根が全て繋がっている部分が、ずりずりと地面に潜ろうとしていた。

 させないと根を引っ張ると、ぶつりと根っこが切れてしまう。

 抵抗を感じなくなって後ろにこけそうになったけれど、慌てて踏ん張って何とか耐えた。

 その間に魔獣は地面に潜ってしまい、気が付くと地面の上に在った根も全て消えている。


「あ、しまった・・・」

『全て食べられる前に根の一つを切り離したように見えたな。暴れていたのはグロリアの両手を根の一つに集中させる為か。中々に考えているじゃないか。本当に植物か、コイツ』

「ガライド、どう、しましょう・・・」


 潜って行くのが結構早かったように見える。

 手で掘り返して追いつけるだろうか。


『大丈夫だ、案は有る。取り敢えず今掴んでいる部分を全て食べてしまおう』

「わかり、ました。もぐもぐ」


 ガライドの言葉に安心して、手元で暴れる根っこを食べる。

 全て食べ終わったらガライドが移動指示をして来たので、素直に従った。


『グロリア、少し力を・・・魔力を使わせて貰いたい。今から生成機能を使って魔獣を引きずり出す。勿論倒れる様な真似はさせないから安心してくれ』

「せい、せい・・・わかり、ました」


 確か前にガライドがおかしくなった時に『生成』って何度か言っていた。

 あの時と同じ様に、何かを手足から出すのかな。


『では、行くぞ・・・掘削機、スラスター、牽引機構、ワイヤー一時生成。ターゲット追尾』

「わ、わ・・・!」


 右手が少し光ると、刃物がいっぱいついた不思議な何かが生えて来た。

 それどころかギュルルルって音を出しながら、土を巻き上げ地面を掘って進んでいく。

 右腕が外れて地面にうまっていく。一応紐みたいな物が繋がってはいるけど。

 これって、大丈夫、なのかな。ちゃんと戻るん、だよね?


『ふふっ、グロリアが驚く反応は新鮮だな。魔獣は逃がさない様に常に観測していた。地中に逃げようと私の索敵範囲から逃げない限り見失いはしない。このまま地面を掘って追尾し、魔獣を捕まえたら引き抜く。そら、さっそく捕まえた。グロリア、引き抜くぞ。踏ん張ってくれ』

「はい・・・!」


 ガライドの言葉に頷き、腰を落として力を入れる。

 すると今度はギュルルルと腕の方から音が鳴り、紐が凄い勢いで腕の中に戻って行く。

 ただ魔獣が抵抗しているのか、力を抜くと私が引きずり込まれそうだ。


 けれどその抵抗も短時間で、あっという間に魔獣が地面から引っこ抜かれた。

 そして右腕がガシャンと音を立て、何時もの形に戻ってちょっとホッとする。

 前にも形が変わったから大丈夫だとは思うけど、少しだけ心配だった。


『・・・逃げられないと判断して、戦う選択をしたようだな』


 右腕の状態を確かめていると、地面に埋まっていた根が全て地上に出て来た。

 引き抜いたんじゃなくて、魔獣自身の意志で。そしてその根が私に向いている。

 闘う気らしい。私を倒さないと助からないと判断したんだろう。


 それは、むしろ、好都合だ。


「向かって、来る方が、楽、です・・・!」


 根っこが私を突き刺そうとするのを捕まえ、そのまま引きちぎって食べる。

 食べる私を捕らえて握り潰そうとする根を、無理矢理引きはがして食べて行く。

 叩き潰そうと上から振られた根を、拳を突き上げ正面から粉砕してまた食べる。


 食べて、食べて、食べて・・・魔獣の抵抗がなくなるまで食べ尽くした。

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