第49話、対魔道具使い

 何が起きたのか解らない。突然腕が勝手に動いて、突然紅い光が放たれた。

 私が拳を振るった時よりも、もっともっと大きく太く速い光が。

 光は一瞬で遠くの丘に到達して、そのまま丘を吹き飛ばした。


『目標ニ命中モシールド防御中ニ射線カラ離脱。決戦兵器モ健在。追撃ノ必要有リ』

「ぐっ・・・ガライド、どうしたんですか! 何時ものガライドじゃないです!」


 ガライドの言っている事が解らない訳じゃない。

 きっとまだ敵は生きていて、魔道具も壊れていない。

 だから追撃に行く必要が有る、って言ってるのは解る。


 けどガライドのその言葉は『殺すつもりだった』と言う事だ。


 人を殺しちゃいけない。リーディッドさん達にそう教えられ、ガライドも同意した。

 なのにガライドはその言葉を完全に無視してる。やっぱり何時ものガライドじゃない。

 けれど私の言葉はガライドに届かず、ガライドは次の行動に出た。


『遠距離ニヨル攻撃ハ再度防ガレル可能性有リ。使用者ノ適正ニヨリ接近戦が最適と判断。遠距離狙撃形態解除。使用者ノ戦闘方法ニ最適化・・・補助スラスター生成』

「ま、また!?」


 筒の有った腕から筒が引っ込み、何時もの腕に戻った。

 と思ったら今度は色んな所がガシャガシャと開いて行く。

 開いた所には全部穴が有って、そこに力が集まるのを感じた。


『ブースト』

「っ!?」


 そして赤い光がその穴から放たれ、凄まじい速さで丘が有った所に飛んで行く。

 二度目に使った時に似た様な事が出来たけど、あの時とは比べ物にならない速さだ。

 一瞬で吹き飛ばした丘を越え、更にその先へと飛んで行く。


 青い光を纏いながら凄まじい速度で走る女性を、更に超える速度で追い抜いて。

 彼女を追い抜くと光は私を地面に降ろす様に吹き出し、そのまま彼女の前に落ちた。

 凄い速度で地面に落ちたけど、特に痛みは無い。むしろ体は今までで一番軽い。


「なっ、なんだよそれ!」

『ザザッ・・・敵機ノ速度カラ逃走ハ不可能ト判断・・・ザっ・・・クラッキングニ対スルシステム防護ハ、当機ノセキリュティデハ不可能ト判断・・・システムニ重大ナ損傷ヲ受ケルマデ86秒ト予測・・・ソレマデニ敵機ノ撃破ガ叶ワナケレバ、生存ハ絶望的ト警告・・・ザザッ』

「はぁ!?」


 女性の持つ大きな筒・・・筒? 何だか長い何かは、さっきのガライドの様な声を出した。

 ただその声は何か嫌な音が混じっていて、人の発する声に感じられない。


 いや、今は置いておこう。もうこの距離に入ったなら仕方ないし。

 ガライドの様子も、この手足の状態も気になるけど、今はこの女性の事が先だ。

 彼女の筒の先はずっと私に向いていて、叫んでいる間も私から目を逸らしてはいない。


 多分私に隙が有れば、さっきの青い光を放つつもりなんだろう。

 アレはとても怖いけれど、怖くない事は解っている。

 ガライドが見本を見せてくれた。紅い光を集めれば弾く事が出来ると。


「くそっ、こんなのズルだろ! 何なんだよその魔道具は!」

「っ!」


 女性は私の隙を伺うのを止めたのか、青い光を連続で放って来た。

 凄まじい速さだったけれど、反射的に体が動いてそれらを幾つか弾きつつ躱す。

 弾いた先で光が地面を抉っているけど、そこまで気にする余裕が無い。

 周りを気にするには距離が近すぎる。光ったとほぼ同時に間近まで迫って来る。


 弾けるのは解っている。自力で防御できるのも解った。

 ただあれが私の『生身』の部分に当たったら不味い。

 気を抜く事は出来ないし、抜いたらきっと次の瞬間に死ぬ。


「なら・・・!」

「はやっ!?」


 攻撃の合間に全力で女性の懐へ踏み込み、持っている魔道具を狙って拳を振り抜く。

 その行動に応える様に紅い光が私を押し出し、全てが思っていた以上の速さで。

 けれど魔道具に当たる直前で青い光が集まり、私の拳は止められた。

 ただしそれはほんの一瞬で、紅い光が青い光を飲み込んで吹き飛ばす。


「っぶなぁ! 何だよその速さ! つーかコイツで防げないっておかしいだろ!」

『ザッ・・・シールドデ完全防御ハ不可能・・・ザザッ・・・0.2秒ガ限界ト予測。防御デハナク回避ヲ推奨・・・ザザッ』

「んな事最初の一撃で解ってんだよ! 躱せないから当たってんでしょうが!!」


 ただ躱されてしまった。防いだ一瞬で逃げられてしまった。

 彼女の動きはかなり早いし、体に青い光を纏っているのが見える。

 つまりこの女性は『魔道具使い』という事なんだろう。


 今の踏み込みは全力だった。それを躱されたのなら別の手段を考えないといけない。

 紅い光を纏ってる今なら、さっきの大きな攻撃も出来ない訳じゃないとは思う。

 ただそれをこの距離で放って、この人は無事に生きていられるだろうか。


「くそ、こうなったら・・・! バースト!」

『ザザッ・・・セーフティ解除、フルバーストモード移行・・・ザザッ』


 どうするかと少し悩んでいると、魔道具から力が膨れ上がるのを感じた。

 さっきとは比べ物にならない力が集まっている。アレは弾くのすら危ないと感じる。

 思わず身構えると、女性はその魔道具を『職員さん達』に向けた。


「これが私の一回きりの奥の手だ。勝つ為には絶対に当てる必要が有る。だから正々堂々の勝負と行こうじゃないか。アンタが防げれば皆無事で私の負けだ。まあそんなの無視して私に攻撃しに来ても良いぜ。その代わりあいつらはみんな死ぬけどな!」



 ――――――――何、を、言ってるの、この人。

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