第37話、魔道具使い

「ふっ、よっと・・・お待たせしました。グロリアさん」

「ふへぇ~、流石にこの高さはちょっと怖かったぁ」


 リーディッドさんが崖を上り、それに少し遅れてキャスさんが上って来た。

 ただ二人の崖登りは多少待った程度で、待たされた感覚は殆ど無い。

 むしろその前のガンさんの方がよっぽど待ってった気がする。

 ただ『待ちました』と口にするのは少し気まずい。


「はぁ・・・はぁ・・・」


 横で疲れ切って倒れている人に、遅かったなんて言う事は出来ない。


「何倒れてるんですか。ガン、ここは既に魔獣の森ですよ。起きなさい」

「そうだよ。ちょっと気を抜き過ぎだよ」

「いてっ、お、おまえら、蹴るな! こっちは目茶苦茶疲れてんだよ!」

「何を甘えた事を。同じ高さを私達も今登って来たんですけどね」

「そうだよー。あー疲れたぁー」

「お前らは俺が持って上がったロープ使ってじゃねーか! 労力が全然違うだろ!」


 ガンさんの言う通り、二人はロープを使って登って来た。

 完全に自力で登って来たガンさんとは、疲れ具合は大分違うと思う。

 けれどそんな二人の言葉に文句を吐きながらも、ガンさんは息を整えて立ち上がった。


「取り敢えずロープは回収しておきましょう。結びっぱなしにして何か有って、降りるとき自力なんて勘弁して欲しいですから」

「うわぁ・・・上から見るとやっぱり高いねぇ・・・これ登りより降りる方が怖いかも」

「俺はその勘弁して欲しい怖い高さを自力で登ったんですけどねぇ・・・無視すんなよぉ」


 ガンさんの言葉を完全に無視して、ロープを回収して荷物にまとめる二人。

 ただふと気が付いたけれど、ガンさんが荷物を殆ど持っていない。

 普段ならガンさんが多めに持っていて、二人が軽装になっている事が多いのに。


「二人共、索敵は任せた。今日は最初から全開で行く」

「はいはい、任されましたよ」

「その代わりちゃんと守ってよねー」


 三人の状態が少し違う事に気が付き観察していると、ガンさんが何かを取り出した。

 両手に収まる大きさの棒の様な物。いや、棒だ。何なんだろう、あの棒は。


『これはまさか量産型の・・・いやだが、少し形が違うな。私の知らない時期に作られた物か、それともこれがこの時代に作られた『魔道具』なのか・・・』


 魔道具。あの棒は魔道具なんだ。ならガライドみたいに光るのかな。

 なんて思っていると、本当に棒が光った。綺麗な青い光だ。

 同時にガンさんの体が淡く光った様に見え、けれどそっちの光はすぐに消えた。


 今のはもしかして、私の紅い光と同じ物なんだろうか。

 棒の先から延びる光を見ると、。

 そう思い眺めていると、ガンさんがニッと笑ってこっちを向いた。


「グロリア、これが俺の奥の手で『光剣』っていう、そのまんまの名前の魔道具だ」

「こう、けん」

「ああ。グロリアの持つ完成品の古代魔道具と違って、寄せ集めの修理品だけどな。この魔道具って各地で結構見つかるんだけど、壊れてない物は少なくてさ。どうにか使える様にしたい連中が色々頑張った結果、部品が在れば直せる様になった物の一つなんだ」

『発掘した物で使える物を繋ぎ合わせたか。だがその過程で代用品も使われている様だ。明らかに私が知る物と反応が違う。おそらく何かしらの魔獣の素材が組み込まれているな。それにこの反応は・・・想定よりもガンが実際に戦闘で使う所を見た方が早いか』


 ガライドの言葉に少し驚いて『光剣』を見る。魔道具って、魔獣の素材が入ってるんだ。

 もしかして私がギルドに持ち帰った素材も、こういう魔道具に使われるのかな。


「ガンはこれが有るから、傭兵ギルドの中では割と上の方の扱いなんだよねー」

「この魔道具の火力は有用ですからね。後ガン自身も何気に扱いが上手いですし」

「お前等にちゃんと褒められると、何か企んでそうで不安だ」

「聞きましてキャスさん。後で何かしてやりましょう」

「聞きましてよリーディッドさん。絶対何かしましょうね」

「すみませんでした。今のは俺が悪かったので勘弁して下さい」


 二人が褒めるのを新鮮な気持ちで聞いていると、ガンさんが怯えた様子を見せる。

 それが気に食わなかったのか、二人はあからさまに不機嫌そうな顔になってしまった。

 ガンさんが慌てて謝ったおかげか、すぐに機嫌を直してくれたけれど。

 それにホッとしていると、リーディッドさんの表情が変わった。


『グロリア、魔獣が接近して来るぞ』

「ガン、魔獣が来ますよ」


 ガライドとリーディッドさんの声、そしてそれぞれに反応した私とガンさん。

 どちらも反応はほぼ同時。私はマップの赤い光を、ガンさんはその先を見据える。


『驚いたな。まさかリーディッドは自力で索敵が出来るのか? これが現代に生きる人間の力か。我々無しでそんな事まで出来るとは・・・いや、出来ねば生き残れなかった故の進化か』


 リーディッドさんは視界を超えた先の魔獣にも気が付けるらしい。

 赤い光は確かに走ればすぐだけど、そこそこ距離がある。

 魔獣が居るであろう方向を見ても木々に遮られていて私には解らない。


 見通しの良い場所か足音が聞こえる距離なら兎も角、どうやって見つけているんだろうか。

 ガライドは手足の魔道具を使っているから出来るんだと思っていた。

 もしかして私も頑張れば、この距離でも自力で気が付けるのかな。


『確かに仕事中も魔獣を上手く避けていたな。砦での警備の一件もグロリアの反応だけでなく、魔獣の接近に気が付いていたからこそか。中々に曲者だな。街の外の移動中や戦闘中の反応は、単に戦闘の備える為だけではなかったとは。いや、私の観察と考察が足りなかっただけか』


 ガライドが感心した様に語るのを聞き、私もリーディッドさんに尊敬の目を向ける。

 この人は本当に凄い。私の知らない事を沢山知っていて、私が出来ない事を沢山出来る。


「なぁ。リーディッドを見るグロリアの目が光剣見た時より輝いてんの気のせい?」

「そりゃそうでしょ。グロリアちゃんの方が威力のある魔道具持ってんだから」

「ガン、そんな下らない事気にしてないでちゃんと警戒して下さい」

「・・・へーい」


 別にそういう理由で驚かなかった訳ではないんだけど。

 いや、今そういう会話は後にしよう。魔獣を倒す方が先だ。

 皆の安全を確保してから―――――。


「グロリア、取り敢えず一体目は任せてくれ」

「え・・・は、はい、解り、ました」


 赤く光る『まっぷ』の点を見ながら、踏み出そうとした足の力を抜く。

 ガンさんの要望に頷いてではなく、彼の様子に呑まれてしまった。

 何時も明るい様子で優しい彼の目に、怒り以外の静かな迫力を感じて。


「もうそろそろですよ、ガン・・・3,2,1、見えます」


 リーディッドさんが数字を数え、そして魔獣が見える距離に入る。

 それでもそこそこの距離。私なら一歩だけれど、三人には遠いはず。

 けれどその距離を、ガンさんは一歩で潰した。初めて見る速さで。


「―――――っ!」


 そして魔獣の首の下に潜り込む様に身を屈めると、彼の体がまた淡く光る。

 光は剣に吸い寄せられる様に流れ、光の筋が煌めいた。

 それにほんの少し遅れて、魔獣の首がずるりと落ちる。

 魔獣は突然の接近に驚いた様子で、何も出来ずにそのまま殺された。


「・・・ふぅ~~~。ま、こんなもんか」

「久々に見たけど、魔道具を使った時のガンはまるで男前に見えるね」

「本当に。普段の残念さが嘘の様です」

「褒めるならちゃんと褒めろよお前等!」


 三人は何時もの調子だ。普段と変わらないガンさん達だ。

 けれど今の一瞬は、アレは、あの時の光景に似ていた。

 私が手足を落とされた、あの時に・・・!


『やはり。私の知る物ではないな。近しいが独自の性能になっている。反応数値を見るに威力は有るが消費も相当だろう。何よりもあの反応は変異獣の力に近い。成程『魔道具使い』か。これは思った以上に、獣よりも人間の方が危険かもしれんな。アレは、グロリアを斬れる』

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