第31話、子供らしさ

「二度と戻ってくんじゃねーぞ、クソ女ー!」

「コイツ、リーディッドの姿が見えなくなってから言いやがった」

「清々しいまでに小物よね」

「俺お前のそういう所好きだぞ。見ててほっとする」

「それ多分駄目な感覚だと思う・・・」


 どうしよう。リーディッドさんに置いて行かれてしまった。

 それもどうやら彼女と仲の悪いらしい子の所に。

 居心地が余りに悪くて、視線を彷徨わせてしまう。

 すると男の子は私に目を向け、上から下まで確認する様に視線を動かした。


「はぁ。んで、お前何なんだよ。アイツの何な訳?」

「え、えと、なん・・・なん、でしょう?」

「俺に聞かれても知るかよ!」

「ご、ごめん、なさい」


 怒られてしまった。でも何と答えたら良いのか解らなかったんだ。

 最近怒られる事なんて無かったから、久々に怒られて少し気持ちが落ち込む。

 奴隷の頃は嫌な気持ちになっても、落ち込む事なんてなかったのにな。


「何怒鳴ってんのよ。八つ当たりしないでよね」

「そうだぞ。カッコ悪いぞ」

「そういう所はどうかと思うな」

「怯えてんじゃないの、可哀そうに。大丈夫だからね、アイツ馬鹿なだけだから」

「味方が一人も居ねぇ!?」


 ただ他の子供達は私の前に立ってくれたり、男の子を叱り始めた。

 慌てていると手を取られ、目の前の女の子がにこりと笑う。


「貴女、名前は?」

「グ、グロリア、です」

「そう、グロリア、宜しくね」

「よろしく、おねがい、します」


 ぺこりと頭を下げると、女の子は歯を見せて笑ってくれた。

 その事にホッとしていると、さっきの男の子の視線がまた刺さる。

 いや、見まわすと他の子達も全員見ていた。


「グロリアって、前にリーディッドと一緒に街を歩いてなかった? 見た覚えが有るんだけど」

「ああ、俺も俺も。ガン達と一緒に赤い髪の子が歩いてたの見た気がする」

「てことは・・・お前どっかのお嬢様なのか?」

「・・・そう、呼ばれる事は、あり、ます」


 何処かのお嬢様、というのが何を指すのか判断しきれなかった。

 どう答えれば良いのかも解らなかったというのもある。

 ただリズさんは常にそう呼ぶし、兵士さんも何故かそう呼ぶ。

 だからそう答えると、皆納得した様に頷いた。


「まあそうよね。綺麗なドレス着てるもん。でも良いの? 私達について来て。汚れるよ?」

「どうせリーディッドの奴に無理矢理連れてこられたんじゃねえのー?」

「あり得る。それか面倒見ろって兄貴に言われて、面倒臭くなって置いてったんだぜ」

「可哀そうに。大丈夫、私達が一緒に遊んであげるからね」

『すごいな。リーディッドを悪者にしてあっという間に入り込めてしまった』


 わ、悪者って、そんなつもりは、私には無いんだけど。

 ただ説明を口にしようと思ったら、女の子に手を引かれてしまった。


「まあ良いわ。リーディッドに邪魔されたけど、続きをしましょう」

「え、は、はい、わかり、ました・・・」


 言われる通り女の子に付いて行き、何をやっていたのか真剣に聞く。

 それはどれもこれも知らない事ばかりで、上手く出来ない事も幾つかあった。

 けれど皆と一緒にやっている内に、上手い下手などどうでも良くなる自分が居る。

 ううん、むしろ、失敗してるのに楽しい自分が、居た。


『ふふっ、楽しそうだな・・・やはり私はAIだ。どれだけ人間臭い言動をしようとも、真に子供の為の判断は出来んか。リーディッドには感謝せねば』








「はぁっ・・・はぁっ・・・ど、どういう、体力、してんだ・・・!」

「お、おいつけ、ねえ・・・!」

「う、嘘でしょ・・・私、足には自信あったのに・・・」

「も、もうダメ、こ、降参・・・」

『まあグロリアが追いかけあいで本気を出せば、こうもなるだろうな。特に相手は子供だ』


 色々遊んでいる内に、皆で追いかけあう遊びを始めた。

 最後の一人を捕まえるまで、捕まえる人間が増えていくという遊びだ。

 これは加減を気にしなくて良いので走り回っていたら、全員が息を切らして倒れてしまった。


「ご、めん、なさい・・・」


 これも本当は加減をするべきだっただろうか。

 手加減の成果の為と考えればこ全力で逃げるべきではなかったかもしれない。

 そう思い謝ると、リーディッドさんに悪態をついていた男の子が口を開いた。


「・・・なぁーに謝ってんだよ。ばぁーか」

「馬鹿はアンタでしょうが。ろくに計算も出来ないくせに」

「そうだそうだ。お前が一番馬鹿だろーが」

「馬鹿が人の事馬鹿なんて言ってんじゃないわよ!」

「お前等本当にひでぇな! そういう意味じゃねえよ! 解れよ!」

『くくっ、子供らしい不器用さだな。いや、男の子らしい、とでも言うべきか?』


 すると男の子が責められ始め、ガライドは何故か楽しそうだ。

 良く解らない展開にオロオロしていると、男の子は私を指さして叫ぶ。


「だ、だから、遊んでんだし謝る必要なんかねえだろ! 気にすんな! 解ったか!」

「は、はい、わかり、まし、た」


 なにがだからなのか理解出来なかったけど、勢いに呑まれて頷き返す。

 すると彼は満足そうに頷き、女の子に「偉そうなのよ!」と叩かれてしまったけれど。

 そうしてその日は迎えに来る夕暮れまで、子供達とずっと遊んですごした。



 因みに迎えの際、男の子はまたリーディッドさんに振り回された。

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