第20話 お店のインスタグラム
夜の焙煎作業の見学に
その代わり、昼間に一緒に
「松本さんさぁ。またあそこのコーヒースタンドに一緒に行かない?」
「え……」
もちろん遠藤さんには、店員の石原さんから言い寄られた事は話していません。その辺りの事情は、話してはいけないのではないかと、勝手に考えている所でした。
そして私が二の句を次げないでいると、それを知ってか知らずか、遠藤さんが話を続けてくれました。
「なんだかあのイケメン店員さん、アタシに対する態度がどうしてか素っ気なくなっちゃって。話をしようとしても、アタシの後ろに並んでいる女の子に話しかけてるのよ! もうなんだか冷めちゃったわ」
「あー……そう、ですか……」
おそらく、奥の店員さんにこっぴどく叱られたようです。それで不貞腐れて遠藤さんの話を聞かないのでしょう。容易に想像できました。それにしても、露骨過ぎますよね。
「うーん……。もうあそこのコーヒースタンドで、コーヒーを買うのは止めよっかなー……、ってちょっと思ってまして……」
私の、ちょっと濁した曖昧な返答を聞いてくれた遠藤さん、何かそこに裏の意味を感じてくれたのでしょう。あまり深くは突っ込まれずに、会話を続けてくれました。
「そうよねぇ。アタシも冷たく邪険にされるのなら、無理してあのお店に行かなくてもいいかな。コーヒーが飲みたくなったら、また一緒に行きましょ」
「そうですね。そうしましょう」
私の同意で、その場のお話は終わりました。でも、深夜の焙煎作業の事は話していません。遠藤さんの目的はイケメンを見て目の保養をする事。私のように興味で焙煎の光景を見たい、という気持ちではないですから。それに、あの場はかなり濃いマニアの方々の集まりになってきてますから、そこに遠藤さんを連れて行くのは気が引けたのも、正直なお話です。
そんな訳で、いつものお昼の時間は終わりになって、仕事に取りかかります。今日もまた忙しくなりそうです。
────────
その夜もまた、奥の店員さんの焙煎作業の見学のため、閉店後のコーヒースタンド『ピーベリー』の前で、ピッキングをしている奥の店員さんを眺めていました。私を含めて三人の見学者が、『ピーベリー』の奥で作業している店員さんの手元を見つめています。
チャッチャッ……チャリッ、カラン
規則正しい音と共に、ピッキングをしていて悪い豆をはじいては別のお皿に移す、そんな作業をじっと眺めていると、一緒に見学をしていたある女性が口を開きます。
「そう言えば、ここのお店のインスタグラムのサイト、開設したんですね」
その女性の手元を見ると、スマホを左手で支えて右手中指で「ポンポン」とタップしていました。
「えっ? 見せてもらってもいいですか?」
「どうぞどうぞ」
その女性のスマホ画面を拝見すると、確かに「コーヒースタンド『ピーベリー』」と書かれたサイトが表示されていました。コーヒー豆の写真やお店前でポーズを取るイケメン店員の石原さんの写真など、色々な写真が載っていて、目を引くレイアウトになっていました。
「こんな写真を撮っていたんですね。私も早速フォローしますね」
自分のインスタグラムのアイコンをタップして開き、検索してお店のページを探しだし、早速フォローのボタンをタップしました。
「ああ。ありがとうございます。その日に販売しているコーヒー豆の紹介とかもしてますから、参考にして下さい」
奥の店員さんから声がかけられます。
別に投稿する写真も無く、アカウントだけ取っていた私とすれば、お店のサイトがフォローできたのは嬉しい事です。
これからは、より身近なお店となるでしょう。インスタグラムは頻繁に覗く事になりそうです。
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