第10話 親睦会の終わり
飲むのとおしゃべりはさらに白熱した状況になって、追加の注文がピーベリーの奥の店員さんに飛んでいきます。
「じゃあこの、刺身盛り合わせを」
「あ、お茶漬けくださーい」
よく
「お酒のおかわりは?」
ピーベリーの奥の店員さんが、さらにドリンクの注文を求めてきます。そうすると、「ビール」「カシオレ」など、これもまた次々に注文が入ってきます。ドリンクのウィンドウを開けてタップし、注文を通します。この数の注文をちゃんと覚えて手際よくさばけるなんて、やっぱり接客業をやっているだけはありますね。
ある程度の注文が終わった所で、飲み終わって空いたグラスが出てきます。そのグラスも、ピーベリーの奥の店員さんが目ざとく見つけて回収し、通路側に出しておきます。配慮が行き届いていると言うかやりすぎと言うか。
そんな状況には目もくれず、みんなはまくし立てるようにしゃべるばかり。お話のネタはつきないようで、まだまだ続きます。
そんな私は完全に出遅れた形になってしまい、ただただみんなのお話を聞き流すばかり。ビールも進まないですし、サラダもなんだか食べ切れてません。すると私の事を心配したのか、ピーベリーの奥の店員さんが私に話しかけてくれます。
「大丈夫ですか? 調子でも悪いですか?」
「え? いえ、そういうのじゃないんです」
思いっきり不審な言動ですね。私は首を振って否定をしましたが、気が進まないのは確かな事。その後もみんなのお話は聞き流すばかりで頭には残らず、食も進みませんでした。
「おーい。もう飲み放題の時間は終わりになるぞ」
ピーベリーの奥の店員さんが、お話の中心になっているイケメン店員さんの石原さんに声をかけます。そろそろ終わりの時間なようです。
「じゃ、ラストオーダーだけど、なにか注文する人はいる?」
石原さんがひときわ大きめな声でみんなを制して話をし、最後の注文を聞いてきます。みんなお互いを見て注文する気配が無いと判断すると、「大丈夫でーす」とひとりの人から声が上がります。それが終わりの合図でした。
「じゃ、今日の会はこの辺で」
石原さんの宣言で、親睦会は終わりとなりました。各自が自分の荷物を持って席を立ち、出口まで向かいます。私はみんなの一番後ろです。正確に言うと、最後から二番目。最後はピーベリーの奥の店員さんです。
最後まで残っていたピーベリーの奥の店員さんは、忘れ物が無いか個室の全体を一通り見て回り、割り箸やお手拭きの紙などのゴミをひとつにまとめてテーブルに置いて、やっと私たちに追いついてきました。
石原さんや他のみんなはそんな事もつゆ知らず、先にエレベーターに乗って下に向かってしまいました。その時、私はエレベーターには乗らずにいったんとどまって、奥の店員さんがお会計を済ますまで待っていました。レジでレシートとお釣りを受け取ってこちらに向きを変えると、私がいるとは思ってなかったのでしょう、ちょっと驚いて「おっ」という口の形をして、それから私にしゃべりかけてくれます。
「あ……、エレベーター乗れませんでした?」
「……ちょっとギュウギュウでしたから」
本当は、そうではありません。なんだか申し訳ない気持ちになってしまっていたので、待っていただけです。なんて言える訳がありませんでした。
二人でエレベーターに乗って下に降りると、今までいた雑居ビルの前でみんなが輪になってお話をしていて、合間合間でお金のやり取りをしていました。ちょっと思ったのは、今回の親睦会のお会計、石原さんには連絡してない様子でしたので、なぜ石原さんがお金のやり取りをしているのだろうと疑問に思いました。
「じゃ、みんな気をつけて帰ってねー」
という宣言を石原さんがして、「お疲れ様ー」とみんなが三々五々と帰って行きます。あれ? 私は今回のお金を支払ってないですよ? そんな訳で会費を支払う間も無く、親睦会は終わってしまいました。最後に残っていたのは、私と奥の店員さんだけです。
「あの、今日のお支払いは?」
私は奥の店員さんにたずねると、「またか(汗)」という表情を浮かべて私に答えます。
「あいつ、いつも店の
そんな事になっているとは。あのイケメン店員さんの石原さん、そんなにもお金にルーズだったなんて。まあ、ちょっと浮ついたキャラらしい行動と言えばそうですが。そのとばっちりを受けている奥の店員さん、ちょっと、いやかなり苦労されているんだろうと想像できてしまいました。
「少ないですが、どうぞ」
私は言いようのない申し訳無さを帳消しにするつもりで、ちょっと多めに財布から千円札を抜き出し、今回の会費として奥の店員さんに差し出します。そんな行動を取るとは思ってなかったのでしょう。なにかを言いかけようとしましたがそれを口には出さずに飲み込んで、目の前に差し出された千円札のうち2枚だけを抜いて、頭を下げます。
「じゃあこれだけ。これ以上は受け取れないですから」
この時、お互いがお互いを気遣って変な友情関係が生まれた気がしたのは、私だけなのでしょうか?
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