小説の仕組み

第1話 どんな小説を書くべきか


どんな小説を書くべきか


 しっかりとしたプロット

 見せ場が多いこと

 ヒーローかヒロイン、またはその両方が登場すること

 変化と想像力に富み、しかも説得力のある性格描写

 明確で自然な登場人物の動き

 綿密な背景描写

 わかりやすい文章


 多少のリリシズムと強烈な印象的イメージを豊富に盛りこんだ文体

 実生活上のいろいろな経験に、ピリッときくエッセンスを加えること


□小説の要素


 話をA地点からB地点、そして大団円のZ地点へ運ぶ叙述

 読者に実感を与える描写

 登場人物を血の通った存在にする会話


□読むに値するもの


1 誰もが心に思っている事例を、再認識させ共感させる

2 誰もが知りながら心で見過ごしている事柄を、あらた めて再認識し実感させる

3 人に知られていない事柄を書き表して、そこに意味を発見し光を当てる


□小説の書き方


 小説の役割は、読者がストーリーを楽しみ、のめりこみ、文章を読んでいることを忘れるようにすること


 冒頭の文章を、読者が次の文章を読みたくなるように書き、最初の段落を、次の段落を読みたくなるように書く。次の章を読まないではいられないように書くこと


 主人公の行為が全部最初の思惑とはちがった方向にねじれていく

 その展開があまりにも意外でリアルだから、この後どうなるんだろう、と読まされてしまう


 説明や描写ではなく、アクションで示すのが小説の重要なやり方

 アクションに加えて、感覚まで動員する

 説明、アクション、感覚描写という三段階を踏んで、真実に肉薄していく

 主体の反応によって対象のすばらしさを書く


 小説とは、愛と憎しみのあいだを行ったり来たり、心の動きと身体の動きのあいだを行ったり来たり、自己と他者、個人と社会のあいだを行ったり来たりするもの

 初心者の小説が独り言になりがちなのは、矢印の行ったり来たりがないから


 心の動きを書いて身体の動きを伝えること

 身体の動きを書いて心の動きを伝えること


 飛行機のなかで気楽に読めるかどうか、読み出したらとまらなくなるかどうか

 それを可能にするのは、作中人物の行動や言葉や周囲の状況に対する共感

 そこに自分自身の人生や信条に重なるものがあれば、読者は作品に感情移入する


 前後の文章の意味がつながっているということ、これが難しい

 まえに述べたことを受けて、すこしあとの部分に意味をつなげる

 地表には現れていないが地中を伝わって流れている地下水のように、意味が文章のうしろで繋がっていなければならない


 重い題材も上面だけで書けば軽くなり、軽い題材も視点が深ければ充実した読後感を与える。文章は表現。視点と思考の結実だ


河合隼雄

 作者の思いがけないことが起こることこそ、ほんとうの創作である


□主人公につらくあたれ


 主人公に葛藤を与えよ

 葛藤状態にある人間の心――愛情と義務との対立であることが多い――を浮き彫りにする


 主人公を問題に直面させるだけでなく、早くスムーズに問題を解決させてやりたいという誘惑をしりぞけなくてはならない。劇的対立が深まっていくことこそ、良質のフィクションの条件なのである

 主人公に問題を解決させる前に、問題をどんどん深刻化させなければならない

 登場人物を強烈な対立状況のなかに投げ込み、徹底的に鍛え抜こう

 努力があだとなって、もっと厄介な羽目に陥る状況をつくりだすこと


□余韻


 読み終えて本を閉じたあとも、心のなかに何かが残る

 その「何か」


余韻を漂わせる方法

 時間・運動の継続を述べる

 時間・運動が続いていると、読み手は「まだお話が先に続くのでは?」と想像する

 空間の広さが強調されると、読み手は頭のなかでそのイメージを「絵」にしようと想像する


 大事なのは、読者が本を閉じ、書棚に戻したあと、しばらくのあいだその頭と心に余韻が響くこと


□文章の隙間


 すぐれた文章には隙間がある

 お話のなかに、読み手が入っていける隙間、読み手がお話に参加できる隙間があること

 隙間がない文章は、「我」でぎちぎちになっている


 誰もが思い当たるフシが生まれ、その瞬間に小説がひとりごとからみんなのものになる


 名文を「行外・言外への広がりがある」という

 かならずしも全部を文字にして書いてしまうことが小説ではない


 わざと「書かない」ことによって、なにかを伝えることもまた、小説なのではないか


□才能


 才能の有無は、他人の作品を理解できるかではなく、自分の作品をどこまで正しく評価できるかどうか


 情熱こそ最大の才能である

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