上級異端審問官 その3

「ところでディビッド様」


ディビッドがそんな事を考えている間にテオドロにそっと声をかけられる。


「どうされましたか?」


「貴方様も姉君であるエステル様と共に尊ばれるべき方、その様な仮面を付けて護衛の様に佇まなくとも良いのですよ?」


「いえ、私は上級異端審問官『白の射手』であり、今はバーレ枢機卿より姉上を守る様にと命じられてますので」


ディビッドはそう答える...確かにそう命じられる手紙も受け取っているが、正直な所姉エステルの弟として立つと煩わしい事も多いため、極力表舞台に立つ時はこの姿を維持しており、今回もそうしているだけである。


まぁ人類最強の女エステルに護衛なぞ必要無いのだが...


それに姉や見たことすらない父とは違う髪と瞳の色を持つ為に、悪魔を滅ぼす力を持っていたとしても、未だに教会内部では血の繋がりに疑問を呈す輩もいる。


「しかし貴方こそバーレの...」


「司祭長テオドロ...これ以上は」


ディビッドはテオドロの話を止める。


司祭長テオドロはディビッドがハイラントに繋がる『バーレの真の王』と知っている数少ない一人であり、ディビッドとエステルの父をよく知る人物でもある。


「失礼しました...」


テオドロはディビッドに頭を下げ、再度エステルの元へ近づく。


「ではこちらにおかけください...」


と一番上座の席にエステルを座らせる。


「ありがとう、司祭長テオドロ」


「いいえ」


テオドロは笑顔を見せる。


「では今回の訪問に関してですが...」


柔かに話を始めるエステルに司祭たち全員が耳を傾ける姿を見る四人は早く終わらないかな、と思いながらじっと立ち続けた。


ーーー


会議が終わり、客室でエステルと上級異端審問官の四人はソファーへ座ると、それぞれが気を抜けたようにだらし無くなる。


「眠い...」


ディビッドは仮面を脱ぎあくびをする。


「まだ暑いのに兜は籠るから辛い」


とマキシムも兜を脱いで、ハンカチで顔の汗を拭く。


「別に四人で来なくて良い奴だったじゃん、今日の集まり」


とジョナサンは不貞腐れ気味だ。


「ま~偉い人の話なんつーのはあんなもんでしょ~」


とサミュエルはヘラヘラとしている、ちなみに間違いなく立って寝ていた...彼は隠密故なのか、目を開けながらとか立ったままで睡眠をとる事ができる特技をもっている。


会議というか、今回のエステルの訪問での入城への準備だの、信徒達への話をする件だの色々決める話だった訳で、四人はそれをただただじっと立っているだけの仕事が終わり、だらけ気味である。


もう話の半分あたりは生真面目なマキシム以外は変な妄想したりやら、器用に立って寝てたりやらしている不真面目な連中である。


「姉上もう店に戻って良いですか?」


面倒くさそうな顔をしながらディビッドが言う。


「ディブはダメ、後でテオドロと夕食誘われてるから一緒に来なさい」


「えー」


「俺らは帰って良いんですか?」


「ええ、良いわよお疲れ様~」


「じゃあお先に」


「やったー!」


「じゃあね~坊ちゃん」


マキシムの言葉にエステルはそう答えると解放されたのか喜んで皆立ち上がり、ディビッドにそれぞれ手をふったりしながら帰り支度で着替えるためか部屋を出る。


「なんで私だけ...」


「いろいろ積もる話もあるらしいわよ」


エステルもなんだか面倒臭そうな顔をするのだった。

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