こっそりと


 「浜地さん、昨日この小説読んでみたよ。なんだかすごくラブラブしたカップルの話だったね、面白かったよ。浜地さんはどのシーンが好き?」


 ユキが学校に来てから三日目。どうやら紫は昨日ユキが読んでいた小説を読破したらしく、その話を持ちかける。するとユキは意外そうな顔をしていたが、なんだかどこどなく嬉しそうな表情をしていて……。


 「そ、そうなんだ……。わ、私……告白のシーンとかが……好き……」


 「あ、わかる。ロマンチックだったよね。私もあんな風に告白されたいなあ。私は最初に出会ったところ」


 「そ、そこも……素敵だよね」


 好きな小説の話ができているからか、ユキは昨日よりも明るく紫と話すことができていた。これは紫が積極的にユキと関わろうとしてくれているからこそできたことだろう。ほんと、紫には感謝しかない。


 「お、あいつら昨日より会話が弾んでそうじゃん」


 「浩一もそう思う? ならやっぱりそうか」


 「やっぱ紫のコミュ力はすごいって話だな」


 「な。……あれ、どうした紫?」


 ふと突然紫が俺たちのところにきて話があるそぶりを見せる。


 「あのさ、今日からあたしたちも一緒に屋上で昼休み食べない?」


 「……え?」


 「いやさ、そろそろ浜地さんも学校に慣れてきただろうし、いいかなって思って」


 確かに、ユキが紫に心を少しずつ開いた様子が見られるし……早いかもしれないけど、一緒に食べてみてもいいかもしれない。そこでもっと仲良くなれるかもしれないし。


 だけど……やっぱり優先すべきはユキの気持ちだから。


 「ユキに聞いてみてから考えるよ。本人がオッケーすればそうする」


 「そっか。じゃあ宏樹から次の休み時間に聞いておいて。あたしから聞くと遠慮しちゃうかもしれないし」


 「オッケー」


 というわけで、俺は次の休み時間にそのことをユキに話す。すると……。


 「……い、いいよ。ま、まだ緊張するけど……は、林原さん……いい人だと思うから」


 ユキは四人でお昼ご飯を食べることを承諾してくれた。よかった、これで一歩前進と言ったところだろう。それに……昨日のことも、何もなかったかのように話せてる。


 結局俺は昨日もほとんど寝れてなかったけど……ユキは健康そうだし、俺が気にしすぎているだけなのかもな。でも……やっぱりどうしても引っかかってる。ユキはあの時、どうしてあんな物欲しそうな顔をして……。


 いや、考えたってどうしようもない。俺はユキとの約束を守るだけだ。それ以上のことなんて……ない。


 そして昼休み。俺たち四人は一緒に屋上に行って、昼ごはんを食べた。


 「うわー屋上で食う飯がこんなにも美味いとは。こりゃ丼何杯でも食えるわ」


 「ほどほどにしとけよ浩一」


 「ほんとそれ。あ、浜地さんのお弁当可愛い。それお母さんの手作り?」


 「う、ううん……じ、自分で作ったの」


 「え、まじで!? うわすげー紫のコンビニのサンドウィッチとは大違いだ」


 「うるさい●ね」


 「ストレートすぎでしょ!?」


 「……ふふっ」


 浩一と紫。二人とも一緒に楽しくお喋りしながら弁当を食べてくれるので、俺たち二人で食べている時よりも和気藹々とした雰囲気となった。ユキも二人のやりとりをみてクスリと笑っているし、これならユキも早く二人に馴染むことができるかもしれない。ほんと、頼りになる友達がいてよかった……。


 「ふう……食べた食べた。めっちゃ喉乾いたし、なんか買ってくるわ。ついでに誰か飲み物欲しい人いる?」


 「あ、私欲しい。浜地さんと宏樹は?」


 「俺はまだあるから大丈夫」


 「わ、私も……大丈夫」


 「オッケー。んじゃ紫、先払いで金よこせ」


 「はいはい……って、財布教室だ。はあ……取りに行って自分で買いに行くか」


 「なんだ。じゃ、先に自販機行ってるな」


 「オッケー。じゃ、ちょっと待っててね二人とも」


 というわけで、二人は一旦屋上から出て俺たちは二人っきりになった。別に昨日も一昨日もここで二人っきりで食べていたから別に緊張することなんてないはず……だ。


 「……どうユキ? 二人とはうまくやれそう?」


 余計なことを考えないように、俺はユキに質問する。


 「……ま、まだちょっぴり緊張しちゃうけど……二人ともいい人だから……早く仲良くなれたら……いいなって思う」


 ユキは恥ずかしそうにしながらも、そう答えてくれた。よかった、ユキが二人と仲良くなりたいと思ってくれてて。これなら……え?


 「……ど、どうしたのユキ?」


 ふと突然、ユキが俺の腕を掴んで引っ張る。一体何事? 何かまだ不安なこととかがあるのかな?


 「…………今日の分の……キス……したい」


 「……あ、え、えっと……い、今?」


 「………うん」


 何かと思ったら、それは今日の分のキスだった。だけど今日は昨日とは違って……二人がいる。今は二人とも席を外しているけど、いつ帰ってくるかはわからないし。


 「ふ、二人に見られちゃまずいよ……放課後、人気のない場所でした方が……」


 「今……したい。こっそりすれば……大丈夫だと……思う。だから…………しよ?」


 明らかに、俺の方が正論だ。ここでわざわざキスをするメリットなんて……ないだろうし。だけどユキが照れながらも……笑みを浮かべて俺にそう懇願してきたら……俺は、俺は……。


 「……わかった」


 それを受け入れるしかない。


 「ありがとう……」


 そして受け入れた俺を見たユキは、屋上のドアからではキスしていることが見えづらいところに俺を連れて…………いつものように、俺の唇に、キスをした。


 「んんっ……んちゅ……ん、んん……んっ……ヒロくん……んっ」


 ユキは最初から強く唇をくっつけてきた。だんだん慣れてきたんだろう、ぎこちなさも最初の頃に比べればなくなってきている。……そりゃ、毎日しているからだろうけど。だからか俺も……理性を保つことが、難しくなっている。


 「んっ……ちゅっ……んぅぅ……ちゅ、ちゅ、ちゅ……れろっ」


 そしてユキは昨日同様舌を絡めるキスもした。昨日より驚くことはなかったけど……その分、快感が昨日よりも俺の身体に伝わってきて……思わず俺も、やり返してしまいそうだった。


 「んぅ……ちゅ、ちゅ……ヒロ……くん……んっ、んん……」


 このまま、終わりそうにない気配だった。永遠に、俺たちはキスし続ける勢いのように感じられた。それぐらい、もうキスに俺たちは慣れてしまったのかもしれない。


 「んんっ……! ……ぷはっ」


 だけど突然、ユキがキスをやめる。この勢いなら、もっとしてくるかもと思っていたけど……どうやら、辞めざるを得なくなったからだ。


 「いやー結構時間かかったな」


 「浩一がバカみたいに悩んでたからでしょ。お待たせー二人とも。結構自販機混んでてさー、あれ? 二人ともそんな隅っこにいてどしたの?」


 ドアの方を観れる位置にいたユキは、二人が帰ってきたことにいち早く気づき、キスをやめたようだ。……俺は、キスに取り込まれて……全然気づけなかった。


 「い、いや……ここからだとグラウンドが見えるから見てただけ」


 だから俺は誤魔化すことを頑張ることにした。……まあ、苦しい言い訳だけど。それでもしないよりはマシだ。


 「ふーん。あれ、二人とも顔真っ赤じゃね?」


 「そ、そう? なんか恥ずかしい思い出ばかししててさ……つい赤くなったのかも。な、ユキ?」


 「う、うん…………そ、そうだよ」


 「え、気になるんだけど。あたしにも聞かせてよ」


 「い、いやだ。てかそれよりももうすぐ戻らないとまずくね?」


 「あ、確かに、たくっ……浩一がもっと早く決めてればもっとゆっくりできたのに」


 「わりいって。ほら、今度アクエリやるから」


 「いらんわ! ま、さっさと戻ろっか。いこっ、宏樹と浜地さん」


 「俺を置いてくな!」


 どうやら二人にはバレずに済んだようで、俺たちがここでキスをしていたことは二人とも知らずにいた。よかった……マジでバレたらどうなってたことやら。


 「……ん? どうしたユキ? ……!?」


 二人が前を歩いていて、俺たちのことを見ていない隙にユキは俺の耳元で、こういった。


 「バレちゃいそうで…………ちょっとだけ…………興奮……しちゃったね」


 ユキが何を思ってそんなことを言ったのか……さっぱりわからない。質問しようにも、浩一に話しかけられてしまったのでそれもできない。


 ユキは一体……キスをしてる時、どう思ってるんだろう。


 ――――――――――――


 よろしければ星やフォローをよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る