叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼【怪談シリーズ独立外伝】

Tempp 様作


【あらすじ引用】

新谷坂高校2年の春休み、俺は公理智樹から『呪いの家に付き合ってほしい』というLINEを受け取る。公理智樹は強引だ。下手に断ると無理やり呪いの家に放りこまれるかもしれない。それを避けるための妥協策として、家の前まで見に行くという約束をした。それが運の尽き。

案の定俺は家に呪われ、家の呪いを解かなければならなくなる。


【物語は】

とても面白い始まり方をする。なんと変わった視点から物語は始まっていくのである。しかしこれは序章とあることからも、大事な発端と言える。何故呪いの家となったのか、その発端が描かれているのだ。発端を読み、本編を読み進めると、すれ違う”心理”とは実に面白いものだなと感じるだろう。ホラーの中にユーモアを感じる物語。一体、この先どう展開されていくのだろうか?


【主人公と家と友人】

確かにこの物語はホラーであり、サスペンスではあるのだが、前述したようにユーモアがあり笑ってしまう部分もある。しかしそれは、突飛だから面白く感じるのだと思う。笑いというのは、限度を超えた時に起きやすいからである。

つまり、想像を超えるという意味合いだ。


この物語は、家の叫びの意味を知る読み手、意味を知らない主人公たちというバランスによって、怖さと面白さが入り混じっている。これは日常でも起こりうることであり、コメディに使われている技法の一つでもあると思われる。


それはどういうことかというと、”森のくまさん”という歌に例え、考えていただくと分かりやすいだろう。くまは落とし物を届けたい一心なのに、主人公はくまに襲われると思い、逃げようとする。つまり善意と恐怖で想いが噛み合わなくなった時、それはホラーであり、すれ違い系のコメディは産まれるのではないだろうか。

このようなタイプのすれ違いがこの物語の中でも起こっている。そのため、怖いけれど笑えるという部分もあるのだ。


【世界観・舞台の魅力】

世界観設定がしっかりしていて、独創性にすぐれた作品である。

小説の設定や世界観説明は、丁寧なことに越したことはないと思うのだが、あまり丁寧過ぎても読み手の気持ちがダレるということが起きる。早く本題に入ってよ、という状況のことである。

しかし、この物語というのは丁寧に描かれているのにも関わらず、そのようなことは起きない。むしろ、どんどん話にのめり込んでいく。

それは人物の設定や世界観がしっかりしているからであると思われる。


この物語での主要人物は二人。

一人は、主人公であり呪いの分かる人物。そして幽霊の見える主人公の友人。この二人がタッグを組んで、事件に向き合っていく物語。

設定がとても変わっており、片方だけの時の状態と二人で力を合わせた時で、できることが違うように感じた。力を合わせることにより、その個々の能力(?)が活きてくるのだ。


【ミステリーもののような進み方】

事件の紐解き方が、ミステリーものと同じように論理的である。すなわち、とても分かりやすいということ。しかも一ページの文字数が、意外と多いことに気づいて驚く。あっと言う間に一ページが読めてしまうからである。とても巧い話の流れであり、展開の運びであり、飽きさせない物語だなと感じた。


【物語の見どころ】

すでに呪われていて、不運に見舞われている主人公が、更に呪いの家に呪われるところから展開されていく。

序章では、何故呪いの家となったのかがすでに明かされているスタイル。物語が進むにつれ詳しく明かされていくのである。

そしてこの家が、自分を呪った(?)目的に主人公が気づいた時、物語は新たな展開を見せていく。これはとても面白い構成である。


通常呪う方が人間の場合、話を聞くという流れになるのことが多いと思う。しかし、この物語では家というものが対象なため、自分で原因を探っていかなければならない。

物語は事件を紐解くために、更に深みを増していくのだ。その紐解かれ方は淡々としたものではなく、ドラマで再現のようなスタイル。全体的に飽きのこない物語だと感じた。

この事件を解決に導くことになる二人は個性豊か。そして主人公がとても論理的であるため、モノローグの部分が非常に分かりやすく、のめり込みやすい。


あなたもお手に取られてみませんか?

主人公は自分にかかった呪いを解くことができるのか?

何故、家は呪いの家となってしまったのか?

その目で是非、確かめてみてくださいね。お奨めです。

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