「さよなら私のドッペルゲンガー」

新田漣 様作


【あらすじ引用】

「なんとかなるでしょ、だって夏だし」


京都市内で一人暮らし中の高校生、墨染郁人は『ノリと勢いだけで生きている』と評される馬鹿だ。そんな墨染の前に、白谷凛と名乗る少女の幽霊が現れる。


なんでも凛はドッペルゲンガーに存在を奪われ、死に至ったらしい。不幸な最期を遂げた凛が願うのは、自分と成り代わったドッペルゲンガーの殺害だった。


凛の境遇に感じるものがあった墨染は、復讐劇の協力を申し出る。友人である深谷宗平も巻き込んで、奇想天外かつ法律スレスレの馬鹿騒ぎを巻き起こしながらドッペルゲンガーと接触を重ねていく――――。


幽霊になった少女の、報われない恋心と復讐心。

人間として生きるドッペルゲンガーが抱える、衝撃の真実。 

ノリと勢いだけで生きる馬鹿達の、眩い青春の日々。


これは、様々な要素が交錯する夏の京都で起きた、笑いあり涙ありの青春復讐劇。


【物語は】

衝撃の言葉から始まる。主人公たちにとってもそれは、衝撃的だったようだ。そしてその後の展開が、面白すぎる。人様に見せられないカッコで家に居た主人公の元へ、ある少女が乗り込んできたのだ。あらすじにもあるように、彼女はドッペルゲンガーに殺され、自分の人生を奪われてしまった。

冒頭では何故、依頼の相手が主人公だったのかまではわからないが、彼女は”自分を殺して欲しい”と依頼してきたのだった。


【登場人物の魅力】

ノリと勢いで生きている主人公がとても面白い。初めは、真面目という印象が強かった少女は主人公と話をしているうちに、高校生らしさが出てくる。主人公は学校ではバカで有名のようだが、お人よしという印象も受ける。そして少し、クレイジーな面もある。

だが、人に好かれるタイプであることは間違いない。二人はやり取りをしているうちに打ち解けていく。その中での二人のやり取りがとても面白い。物語の内容は暗いはずなのに、とても明るくユーモアのセンスがある。

しかしこれが、”人生を奪われた絶望”を抱える少女を元気にするためと考えると、やはり主人公は優しい人なのではないかと思う。

ノリと勢いとはいえ、”法律を犯すのは不味い”という感覚は持ち合わせているので、その点に関してははとても安心して読み進めることが出来る。きっと、最悪の事態にはならないに違いない。


【物語の魅力】

序盤は始終笑いの止まらない物語である。ドッペルゲンガーに人生を奪われたという暗く切ない物語であるはずだが、主人公の心理状態が絶妙で、つい笑ってしまう。恐らく言葉選びや表現の仕方が巧いので、笑いを誘うのだと思われる。スラスラ読める上、読む手が止まらなくなる。

真面目な文体で哲学的なことを語ったのちの、オチが面白い物語だ。例えば4話の冒頭。青春とは何かについて、”フムフムなるほど”などと思っていたら、オチがついてくる。笑いのセンスが素晴らしい作品である。


主人公はしばしば、幽霊の少女が自分にしか見えないことを忘れ、行動してしまうように感じる。そこから起きる出来事に、さらに笑いが起きるのである。真面目に作戦を立てて実行しているのだろうが、次から次へと巻き起こる出来事が面白い。

しかし、この物語はただ面白いだけではない。ドッペルゲンガーと接触したあたりから少し、違う面も見えてくる。ここまでは主人公の”好奇心”が勝っていた。しかしドッペルゲンガーに実際に接触し、主人公は”存在”について考え始める。果たしてこの物語の結末とは?


【物語の見どころ】

ある日突然、自分が自分に奪われたなら?

生きることを諦めても居場所を奪われたことは、やはり辛いのではないだろうか。自分はここにいるのに、自分の姿をした何者かが自分のフリをして生きていたとしたなら?


主人公はバカで実行力があるという理由により、ある少女から殺害依頼を受けることとなる。初めは”好奇心”とノリ、そこに後悔したくないという気持ちでこの少女の依頼を受けた。

彼女は自分と同じ高校生。やりたいことも夢もあったろう。序盤は笑いが絶えない物語という印象が強いが、彼は彼女の境遇のことも考えているように思える。それが、しっかりとした形になるのはドッペルゲンガーに遭遇してから。笑いにシリアスが混ざり始め、彼の言うことに”確かにそうだよな”と同意してしまう。


ドッペルゲンガーであれ、生活をはじめてしまったら存在を認められてしまっているという事。

自分を奪った自分を消して欲しいと願う少女は、最終的にどのような決断を下すのだろうか?


あなたも是非お手に取られてみませんか?

笑いあり、そして深く考えさせられることもあります。

もしあなたが、少女の立場であったならどんな決断をしますか?

お奨めです。

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