『偽称の虚言者 ―嘘を吐く正直者―』

萩月 様作


【あらすじ引用】

『異能力事件専門捜査室』という秘匿機関の新米捜査官・泉小路小夜いずみこうじさよは、ここ二年間で起きている不可解な事件に頭を悩ませていた。

事件の始まりは二年前からで、発見されたのは二人の能力者の死体。明らかに誰かに殺された、というような有様だった。しかし不気味なことに、肝心の犯人に繋がる痕跡だけが一切見つからないのだ。足跡も、毛髪の一本も、指紋すらも。何者かと「いた」はずなのに、その「情報」が何一つ、無い。

小夜の仕事は能力者収容施設にいる『情報屋』に会い、捜査協力をしてもらうこと。すぐに終わると思っていた矢先、目の前で堂々と脱走しようとする男に遭遇する。小夜は放っておく訳にもいかず、ひとまずその男の用事に同行することに。

京谷要きょうや かなめと名乗った男は、なんでも自他ともに認める「ひどい嘘つき」らしく、「自分の持つ能力は『嘘を信じ込ませること』だ」という。そして、「二人の能力者を“賭け”で殺したのは、この、嘘つきの自分だ」と口にする。

疑う小夜は「証拠を出せ」というものの、要の言葉が嘘か本当なのかは、小夜には分からない。

果たして要は本当にこの事件の犯人なのだろうか。「自分は嘘つきだ」という彼は、その通りの嘘つきなのか。それともその言葉は嘘で、最初から真実を語る正直者なのか――。


【物語は】

ロシアンルーレットのようなモノで始まるのだろうか。嘘なのかホントなのか分からないことを言う人物。彼がこの物語の主要人物のようだ。危険なゲームで対峙する主要人物と相手。そこにあるのは、嘘と確率。頭脳戦と言う言葉が似合う。本編に入ると視点が変わる、ある捜査官へと。読者は読み進めていくうちに、視点が切り替わった意図に気づくこととなる。それは主要人物の能力に関係もしているし、彼を知るには外側から見たほうが分かりやすいという事も含まれるのではないだろうか。もちろん事件の全容をしり、謎を解くには捜査官視点が適しているというのもあるだろうが。そうして物語は主に、異能力者と捜査官視点で展開されていく。


【物語の魅力】

一話からは徐々に、事件の概要と世界観が分かっていく。この物語の面白いと感じるところは、異能力者が万能ではないとうところ。無敵ではないという事だ。異能力者自体にオリジナル要素が詰め込まれており、その異能力者へのなり方も変わっているが、理由についてはシンプル。死にたくないからである。

とても面白い構成になっている。『嘘つき』そのものが疑われる部分というのも非常に面白い。何故嘘だと思うのか、その心理とはどういうものなのか。この物語の魅力は心理自体なのかもしれない。何が本当なのか、翻弄されていくのも面白いし、真実が何処にあるのか考えるのも面白い。そして、嘘についてのパラドックスについてはとても興味深い。最高のエンターテインメントなのではないかと感じた。自称嘘つきについての考え方。あなたは、『俺は噓つきだ』という人が、何処から嘘をついていると思いますか?


【登場人物の魅力】

話が進むと、主要人物である異能力者と捜査官の二視点で展開されていくのだと気づく。異能力者の彼は、不思議な魅力を持っている。巧く説明することは出来ないが彼については、ゆっくりと明らかになっていく。ミステリアスだから惹かれるのか、言動に翻弄されるからなのか。どちらにせよ、作者の表現力の凄さに圧倒される。

一方操作官は、彼の術中にまんまと嵌められている印象。読者が彼女に移入できるかどうかは考えかたによると思う。彼女の推理も、別な推理もあながち間違っていないという事である。この物語は回を追うごとに面白味が増す。登場人物は一気に増えることはなく、基本は主要の二人に加え、対峙する異能力者だったり、情報をくれる者だったり。思考の部分がしっかり描かれている為、物語に厚みもある。


【物語の魅力】

読む手の読まらなくなる面白い作品は多々あるが、この物語はどんどん惹きこまれ、実際止められない。哲学的であり、”嘘”とはそもそも何を指しているのかという事から考えさせられる。”噓をついています”そのものが嘘なのかという、卵が先か鶏が先かのような沼にハマっていく。真実を追い求める前に、まず自分の脳内を整理したい、言っていることを理解したいという気持ちになる。そして理解したうえで、また混乱する。とても面白い物語であり、嘘を信じさせることと、本当のことを信じさせることの難しさの違いについても考えさせられる。

考えることが好きな人であるならば、引き込まれたまま抜け出せなくなる物語なのではないだろうか。かく言う自分もあっという今に、8話目まで読んでしまい、やめられない。この作品は是非、まとまった時間のある時に読んで欲しいと思う。


きっとあなたも、この物語の虜になることでしょう。

おススメ作品です。

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