第24話 訪問
夜の帳が下りる頃。
約束の時間まであと二分。
私は豊田家の玄関先に立っていた。
手首の時計を確認して丁度に玄関扉を開けようと決める。
豊田は遅刻にはうるさい男だが、かえって早く着きすぎても家人は迷惑するだろうからだ。
豊田の自宅は社から程近い住宅地にある。
日本人街の目と鼻の先。
栄えた港の中心部からは少し距離があるが、立派な邸宅だった。
この煉瓦造りの洒落た世帯用住宅を一括で購入したという噂もある。
門を潜ると、小さな庭には夫人が手を入れている薔薇が咲き乱れていた。
真鍮製の戸叩きがよく手に馴染む。
私はそのまま扉を三度叩いた。
「ごめんください。」
声を張ると、戸の内側から小さな足音がする。
ちょこまかと幼子が走り回る時のような。
それから数秒おいた後で勢いよく扉が開いた。
「いらっしゃいっ!」
無邪気に飛び出してきたのは、豊田の一人娘その人だった。
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