第16話 嫉妬

優雅な応接間に陶器のカップの音が響く。

しかし、その雑音でさえも可憐だった。


『綺麗な茶器ですね。マイセンですか。』

おそらく柄本は婦人を口説く気だったのだろう。柔和な微笑みをのせて訊ねた。

『ええ。ヨーロッパから取り寄せた、お気に入りなんです。』

女の方も柔らかく応える。

『廊下の花瓶も?』

『よくお分かりになったわね。』

『あおい柘榴がお好きなんですか。』

『大好きよ。こちらが発祥の文様らしいから。やっぱりこの国の文化は素敵だと思わない?』

『いっそ神秘的ですよ。この国より素晴らしい青白磁を焼くところはありませんから。』

『あら、お詳しいのね。』

『実家が舶来品の磁器を扱っているもので。勉強させられまして。』

『お家はお店をやっていらっしゃるの?』

『はい。東京の隅の方で。』

私の前ではしない謙遜。いつにも増してキラキラしい表情。

目の前の美女に気に入られたい。それはあけすけに見えた。


ちなみにこいつの実家は当時銀座で有名な百貨店を経営していたし、柄本本人は

相当な放蕩息子だった。自由気ままに育った末っ子は、人たらしの異名で知られていたくらいだ。


ただ、今日ばかりはその態度が癪に触った。


今思えば、気付かぬうちに嫉妬していた。

私は陶磁器の話なぞ理解もできないし、窯元のことなどいっぺんも知らない。

廊下の花瓶も柄本が言わなければ気にも留めなかっただろう。


己にない知識で婦人と心通わせられる友人に、年若い青年は目をすがめること

しかできなかった。




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マイセンというのはドイツの老舗磁器メーカーです。(なんと設立は三百年前!)

ブルーオニオンという独特のモチーフがあるのですが

タマネギでは格好がつかないと思い、【青い柘榴】と表現しました。

元は中国の茶器に絵つけられていた柘榴の実を

柘榴を見慣れないヨーロッパ人の方が

普段目にするタマネギに変えてデザインをしたようです。


柄本くんが言っているように中国には古代からたくさんの窯元があり、

その技術は世界随一でした。

(日本も多く輸入し、職人も招いていたと史実に残っています。)

今では再現できない高等な技術もあるようなので、4000年の歴史は奥深いです。

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