第6話 異世界への扉
「先生、異世界には何があるんですか?」
研究施設地下一階…そこで最後の準備を進めているとアイラが話しかけてきた。
だが…その問には答えられない。
答えを持ち合わせていないのだ。
「分からない。
そもそも人が住める場所かどうかも分からないが。
確かにそれは存在している」
赤い鳥居に近づき手を置く。
果たしてこの先には何があるのか…。
「鬼が出るか蛇が出るか」
この部屋には様々な物が置いてある。
研究の為の機材や本、そして人が入れるほどの大きさで作られた液体の入った機械。
どれも、自分で作った物だ。
「本当に行く気なのですね…」
メイドの穂香は少し不安そうにしながら聞いてくる。
俺は最後の確認を進め頷く。
「ああ…約束したからな…」
今持っている物は3つ。
No.10 伸縮白衣
No.16 多機能通信ブレスレット
No.18 ポーションタブレット
だ。
No.10の機能は魔法の加護による防御と服を綺麗に保つ事。
そして、限界はあるが、どれだけ体が大きくなろうが小さくなろうが、ちょうどのサイズに変わるのだ。
これは、アイラ達でも着れるように設計した物で他にも数着、研究施設の入り口に掛けてある。
今現在、アイラが着ているのもそう。
研究を手伝う際は保護の事も考えて着ているのだ。
「やれやれ…お主がいなくなると寂しくなるな…」
猫のミケさんがそう言いながら足元まで歩いて来て足に手を置く。
寂しいのか、耳がいつもとは違いペタリと折れ、尻尾は下がっている。
「すまないな、ミケさん。
後は二人を頼みます」
ミケさんは、異界から来た勇者と言うこともあって強い、その上に頭が良い。
おそらく、他の二人よりも。
アイラはその言葉を聞き頬を膨らませ、穂香は目をパチパチとさせミケさんと俺を見ていた。
準備はOK、後は異界門を起動させその中に入れば、向こうに行けるはずだ。
「アイラ、スイッチを頼む。
それと、他の二人は離れていてくれ。
何が起こるかわからないからな」
そう言われアイラは出来るだけ遅くその場まで歩き操作を始める。
「アイラ、向こうについたらこれで通信する。
もし、反応が無かったら…。
まあ、俺の事は忘れてこの屋敷を自由に使ってくれ」
「そんな事、冗談でも言わないでください!
先生は凄いんです。
きっと成功します」
アイラはポチポチと画面を操作しながらそう言い操作を手際よく進めていく。
すると、途中でアイラの手が止まる。
見ると目を潤ませ静かに泣いていた
アイラは異界門の研究を手伝っていたため知っているのだ。
向こうに行けば、どうなっているのか分からない。
行った瞬間、向こう側は人間が生きられる環境では無い可能性だってある。
それに向こうには異界門の様な物が無く、こちら側に帰れなくなる可能性も…。
これは無謀な賭けでもある事をアイラは知っている。
「先生? これ…受け取ってください」
アイラは作業を中断し異界門の前に立つ自分の方向へ近づき手を差し出す。
その手を開くとその中には綺麗な石のついたネックレスがあった。
「これは…ミケーレ石か…」
ミケーレ石。
エルフの森にある川から取れる特殊な石だ。
とても貴重な石で、高価。
魔法伝導率が高い為、加護などの永続魔法を込めて使うととても効果的だ
きっと毎月上げていたお小遣いで買ったのだろう。
アイラはそれを自分で首に掛けようとしているのか両手で紐を広げている。
少し屈んでやるとアイラはまるで抱きしめるかのように近づき首につけてくれた。
「ありがとう、アイラ」
出来るだけ時間をかけアイラは結ぶ。
アイラの出会いはいつの事だったか…、目を閉じアイラが近くにいる事を感じながらそう思う。
あの4人がいなくなり最初に家族と思える他者に出会ったのがアイラだ。
雨の降る街…そこで二人は出会った。
お互いに物乞いのエルフと通りすがりの人間。
立場や種族は違ったが、目があった時に何かを感じ、彼女を引き取った。
アイラは両親を失い俺は家族を失いお互いに一人だった。
それが二人を引き合わせたのかは知らない。
だが…これだけは分かる。
家族だと。
「先生…まだかがんでて下さいね?」
アイラは俺の胸に手を当て目を瞑る。
ミケーレ石にエルフであるアイラが魔力を吹き込む。
「精霊よ…私に力を貸して。
あの人を守る…守護する力よ。
心を守り、肉体を守り、命を守りたまえ…」
精霊呪文…アイラ、…いやエルフが得意とする魔術だ。
通常の魔法とは違い魔素を自分で使うのでは無く精霊と呼ばれる生命体を呼び寄せ魔法を行使して貰う、もしくは宿す魔術だ。
アイラの手の平から緑の光が漏れ出している。
どうやらミケーレ石が光っているらしい。
呪文を唱え終えてもアイラはそのまま動かずもう片方の手を握りしめていた。
アイラの頭を撫でて抱き寄せる。
「大丈夫、すぐに目的を果たして連れ帰ってくる。
その為に俺達は今まで研究を続けてきたんだから…」
「はい…先生…先生…」
涙を流しアイラは抱きしめる力を強めた。
…
全ての準備を終え、異界門の前に立つ。
それを見てアイラは決意したかの様に喉から言葉を絞り出す。
「先生…行きます」
そうしてアイラは勢いよくスイッチを勢い良く押した。
『通りゃんせ 通りゃんせ
ここはどこの 細道じゃ』
一瞬、光輝き門が起動。
膨大なエネルギーがいる為あまり長く門は開かない。
「お気をつけて…」
「主よ…気をつけるのだぞ」
「先生…ご無事で…」
俺はすぐさま、残る3人を見ると異界に足を踏み入れたのだった。
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