SCENE:Ⅰ 〖情報と入学〗

─プロローグ─




───「い、いやぁっ! やめて……! 殺さないで!!」



 夜の路地裏に女性の悲痛な声が響く。



「えぇー? なんで? だっておねーサン、誘ったのはアナタだよ?」



 続くのは変声機のかかった高い声。

 無慈悲で、残虐で、淡々とした声。


 “それ”は、もはや人ではないほどの力量を持っていた。

 左右で白黒に分かれているフードで顔の上部を覆っており、顔の下半部には歯を見せ不気味に笑っている白髭の鬼のようなマスクがつけられている。


「ち、違う。違うの! あれは! たっ、ただの冗談のつもりで……!」


 “それ”のフードから赤と黒のオッドアイが覗く。

 目が細められていることから、“それ”は笑っているのだと解る。


 命のやり取りをしているのにも関わらず、路地裏の壁際に追い詰められている女をしゃがみ込んで見つめてくるその妖艶な瞳に、女は一瞬息も忘れ心を奪われていた。


「へぇ? 冗談、ねえ……。おねーサンはいつもオトモダチとかに冗談を言う時に“手先から足先までゆっくり切って嬲って殺してやる”なんて言ってるんだ?」


 女はその声で今の状況を思い出す。


──私は今、殺されようとしている──


 それを再び自覚するのにそう時間はかからなかった。


「ひっ!ち、ちが、そ、れは! ネタ、だったの! あの有名な『アビス』を殺すなんてネットに書けば、私に色んな人が注目してくれると思って……!」


 “それ”はクスリと笑みを零すと言葉を続けた。


「でもなぁー。ボク、【明日の夜1時に○○公園で『アビス』を殺す】なんて面白そーな事言われたものだから、楽しみでずっと、ずぅっと待ってたんだけど、おねーサン中々来ないから……」


 ふふっ、と笑い、どこからかメスの様な鋭い刃を取り出し、手でもてあそぶ。


「だから待ちきれなくておねーサンの家まで行ったんだよ? それなのに酷いなぁ、ボクを怖がるなんて!」

「ひ、いや、いやぁ……」

「だいじょーぶ! 一瞬で終わらせてあげるよ!」






────女は思った。





 嗚呼、私はなんて大きな過ちを犯してしまったのだろう、と。























「ふふっ。その顔、最っ高! ものすごくソソる……!」

























 その日、誰も来ないような暗い路地裏に朱の飛沫が舞った。─────────

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