第282話迷惑路上駐車をする男達が突っかかってきたので反抗してみた2
「あんだと!?」
即座に青筋を立てた坊主男が凄んで来る。
「ここが出入り口だってことも言わなきゃ分からないのかって言ってるんですよ。こんな道端に車停めておいたら邪魔になるでしょ。お兄さん達おいくつですか? 人の迷惑ってやつを考えられないほど、頭悪いんですね」
「この、クソガキぃ」
金髪男は今にも殴ってきそうな勢いだ。
「何怒ってるんですか? こんなところに車停めてなきゃ俺みたいなクソガキに生意気なことを言われることもなかったと思うんですが? 分かりきってたのにぶちギレて、何考えてるのかさっぱり分からないですね。てか、ぶつかったとかぶつけたとか、この道駐車場禁止でしょ。あそこに標識あるし。そこに堂々と停めた上にぶつけられたから示談て、普通に交通事項の対応として警察呼びますよ。こっちはドラレコついてるから、お兄さん達がどんな車の停め方してたかばっちり映ってるし。被害者づらしたいみたいですけど、無理でしょ」
「お前さぁ、自分が言ったこと、覚えておいた方が良いぞ。何があるか分かんねぇからな」
「はぁ? そこに標識あるって言ってんでしょ。国の偉い人が決めた法律破った奴らに「だめですよ」って言ってあげただけでしょ。きつい言葉を使ったのはお兄さん達が突っかかってきたからです」
「口が減らねぇやつだっ。なぁ、大人を怒らせるとどうなるか、思い知らせてやるよ」
と、その時。
「あ、もしもし。あ、事件です。うちスーパーなんすけど、道端に車停めてた人達が凄い勢いで絡んできて、一方的に暴れてるんすよ。警察で対応してもらえませんか?」
高平がスマホを耳に当て、受話口の向こうへそう呼びかけていた。
警察というワードが出たためか、彼らは舌打ちをして車に乗り込むと、勢いよく発進させ、あっという間にいなくなってしまった。
「はー。たく。警察呼ばれて逃げるのかよ」
どうやら、電話は繋げておらず、演技だったようだ。
奏介は車が走り去った方へ見、眉を寄せていた。
「どうしたよ?」
「ああいや。良いやり方だとは思うんだけど……」
あの手の輩は、無駄に復讐心を燃え上がらせる傾向にある。
「スーパーの名前を出して通報するのは、やっぱり良くなかったと思う」
「そうか?」
「言い返すなら、立ち直れないほど、心をボキボキに折る方法まで考えないと駄目なんだ。徹底的にやって、復讐心ごと社会的に殺さないと。恨みは怖いんだぞ」
「……お前のほうが怖いよ、いや、マジで。それはそうと、お前も考えなしに突っかかって行ったじゃん」
「いや、うちの車のドラレコ起動したままで写ってるから、俺が録音したデータと合わせて、奴らの職場、家族、その他社会的なコミュニティに送ってやろうと思ってたんだけど」
「怖いっ怖いっ! 第一あいつらの名前とか素性なんて」
「顔写ってるし、特定するのは簡単なんだよ。自分でも出来るし、そういうのが得意な知り合いがいるからな、何人か」
「何人かいるのか……」
「高平、店以外の場所で絡まれたら、相手にしないで逃げろよ。なんか、良くない後ろ盾がいそうだから」
「後ろ盾?」
「あの豪快なイキリ散らかし方はな」
ボス的な人間がいるのだろう。不良グループや、いわゆる半グレと呼ばれる人種、そういった集まりに所属している可能性がある。
「ま、警察って聞いて逃げ出すような奴らだし大丈夫じゃね?」
「いやそれは……」
どう考えても、ボスに言いつけてやる! 的な感じだったのだが。
(一応個人情報特定しておこう)
奏介はスマホのアドレス帳を開いた。
その翌日、日曜日の午前中
奏介がスーパーに出勤すると、休憩室に店長、小川さんを始めとしたパートさんが何人か、そして高平が険しい顔で何かを話し合っていた。
「お疲れ様です」
更衣室へ行く前に声をかけると、全員がハッとした様子で全員こちらを見てきた。
「……何か、ありましたか?」
少し、嫌な予感がした。
「菅谷、実は」
高平の簡単な説明によると、午前中に柄の悪い連中が来店し、棚を蹴飛ばしたり、客に絡んだりして帰っていたそうだ。明らかに悪意があったという。
「それで、お客さんが少ないんですね」
日曜日の昼だというのに、客がまばらなのだ。
「SNSでヤバい連中が暴れてたって拡散されたらしくてね。ううーなんなんだ、一体!」
店長は高平は肩を落とす。
「すんません。昨日絡まれて揉めたからそれが原因も知れないっす」
「ああ、駐車場の入口に停まってた車よね? いつの間にかいなくなってたけど、そういうことだったの」
小川さんが困ったように頬に手を当てる。
「参ったなぁ。明日も来るとかなんとか言ってたし」
「あの、俺も中途半端に煽ったので俺のせいだと思います。知り合いになんとかしてくれそうな人がいるので……とりあえず俺に任せて下さい」
「そ、そうかい? いや、助かるよ。もう警察沙汰でも構わないから営業妨害を止めてくれ」
店長が両手を合わせ、頭を下げる。
「高平は気にしなくて良いよ。元はと言えば俺のせいだし」
「……!」
「でも成長したな。ちゃんと謝れて」
そのセリフに、パートさん達がクスクスと笑い出した。
「お前! どんだけ上から目線を極めれば済むんだよ!」
「褒めてるのになんだよ」
「くぅ、この野郎」
バイト終了後、すぐに行動に移した。
○
坊主男の
「この店、ヤバい。治安悪い」
「絡まれて、睨まれたんだけど」
「この店危険だぞ」
などの言葉を添えて投稿しまくっていた。
「1ヶ月続ければ客が来なくなって、閉店。ざまぁねぇな」
「たった1日でこれって、あのスーパー、マジで終わったな」
深夜の車の中で笑い合う。暴走族ではない。所属している当たり屋集団の仲間が協力してくれたのだ。拠点は別の街だが、この辺りまでカモを探しに来ている。
当たり屋というのは、わざと車を接触させ、高額な治療費修理費をむしり取る連中のことである。
「ああ、ボスからも徹底的にやれって命令下ってるしな」
「そういや、この前急ブレーキ踏んで追突させた奴は? 金要求してんだろ」
「あぁ、警察に届けてねぇから、保険屋が動けないから待ってくれってさ」
ぎゃははと笑った。
「うけるなー。ぶつかった時は平謝りだったし、この場で示談つったら速攻で乗ったからな」
交通事故を起こした場合は直ちに警察へ連絡し、指示を仰がなければならない。警察に事故証明書を発行してもらわなければ保険会社からの保障が受けられない可能性が出てくるのだ。つまり、すべて自腹になってしまう。
事故を届けなければ、免許停止や免許取り消しを免れることが出来るので、保身のためにやってしまう人もいるらしい。
事故直後は善人対応をしておいて、後日怪我の治療費や修理費を請求する。それが津摩吹達のやり口だった。
と、窓ガラスがコンコンと叩かれた。
「ん?」
そこには、若い男が立っていた。何か声をかけてきている。
「出てこい」
その一言だった。
津摩吹は車のドアを開けて、ゆっくりと外へ出た。
「なんだ、あんた。なんか用か?」
「……
メガネにワイシャツ姿という風貌。ひょろっとしていて弱そうだ。
「金築? あぁ、この前の追突野郎の知り合いか。修理大変だったんだぜ? で、500万、用意出来たのか?」
「おれは、雛原大悟。お前ら、どこから来たのか知らないが、うちの組のもんや身内に手ぇ出しておいて、無事で済むと思うなよ」
路地裏からわらわらとスーツの男達が出てくる。
「はぁ? 何を言って……ん? 雛原?」
と、別の声が。
「雛原組だよ。あんたら、当たり屋なんだってな」
そこには例の生意気な高校生が立ってた。
「あ、あ? まさか、この街で一番でかいヤクザの……」
ボスが関わるな、と言っていた連中だった。
「いい度胸してるよな。雛原さんところの組員から金を巻き上げようとしてたなんてさ」
奏介は、呆れ顔で、そう言った。そして、
「喧嘩を買ってやる。この雛原組がな!」
大悟がそう言い放った。
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