第215話嫌がらせをする性悪アイドル達に対抗してみた2

 何故制服警官が来ているのかと言えばもちろん、奏介が呼んだからである。

 赤松は状況を理解しつつあるのか表情が強張った。しかし、友田と華村はまったくわからないらしい。それどころか強気である。

「それが何?」

「それが何じゃないでしょ。真理愛さんが5200円で買ったワンピース駄目にしといて随分と偉そうじゃん。金持ってるから、弁償すれば良いってこと? なら最初からやらないでよ。頭悪いな」

 冷静に吐き捨てるように言われ、友田は頭に血が上ったよう。

「弁償? そんなんするわけないじゃん。あのババアのワンピースがどうなったって」

「ねぇ、それ、私に口きいてんの?」

 奏介は冷めた目で腕を組む。

「は?」

「これ、他人の物を壊した器物破損ていう犯罪の証拠なの。お巡りさんに見せたら、色んな人に怒られるんじゃない? 証拠握ってる私を怒らせて、あなた達に得はないと思うけど。ネットにも流せるし、事務所に送りつけても良いし、「アイドルが嫌がらせで他人のワンピースに落書き!」って、ニュースになってほしいわけ? そのデカい態度、不快なんだけど」 

「っ……」

 真理愛を馬鹿にして、軽い気持ちで嫌がらせをしていたつもりだが、犯罪という言葉にさすがの友田もたじろぐ。

「てか、それ盗撮ってやつなんじゃない?」

 華村の言葉に赤松と友田は、はっとしたようだ。

「そ、そうよ。控室にカメラつけておくとか、そっちの方が犯罪じゃん!」

「確かに。女でもそういうことするやついるんだ? 変質者じゃん」

 奏介は馬鹿にしたように笑う。

「真理愛さんさぁ、服にイタズラされるの、これが初めてじゃないらしいんだよね」

 目を細める。

「嫌がらせされて困ってたから犯人を突き止めるためにカメラつけようってことになったの。防犯カメラってやつ」

「防犯、カメラ?」

「お店とかにあるでしょ? あれって、店内の犯罪を抑制したり、実際に起こった時に犯人見つけるために使うの。それをあなた達、盗撮だって店に文句言うわけ? 何考えてんの?」

「い、言うわけないでしょ!?」

 友田が怒鳴る。

 奏介はスマホを手で振って、

「言うわけないなら分かるよね? 衣装にイタズラしたクソガキの悪行の証拠を取るためにカメラ仕掛けたの。盗撮じゃないでしょ」

 押し黙る三人。

「ほんと、頭空っぽだよね。一回で止めとけば良いのに調子に乗ってまたやるとかさ。皆が皆、やられっぱなしで泣き寝入りするとでも思った? やったらやり返されるって覚えといたほうが良いよ」

「あ、あんた、それ脅しだからね!?」

「だから偉そうなんだよ。口の効き方に気をつけなって何度言えば分かんの? このクソガキ共」

 唸るような低い声。射殺されそうな視線。

「中学生だからって何やっても許されると思うなよ」

 そこでようやく、3人に恐怖の感情が芽生えた。

 三人で言い返しているのに一切怯まない。それどころか自分達の悪行の証拠を突きつけてくる。

 頭を過るのは、この嫌がらせをファンに知られて炎上するとか裏でこういうことをしていた、とネットニュースにされてしまうことなど最悪の光景だ。

「ま、待って、ちょっと」

 と、テントの中から真理愛が出てきた。

「菅谷さん? 大丈夫?」

「あぁ、はい、問題ないです」

「っ! このババアっ、卑怯なんだよ」

 友田の慟哭に、真理愛は、むっとして、

「菅谷さんに動画見せてもらったわよ。親御さんに、弁償してもらうからよろしく。その暴言、衣装を駄目にしておいてよく言えるよね」

 真理愛は冷静にそれだけ言って、また中へと戻って行った。

「だってさ」

 中学生だから、と我慢していた真理愛に助言したのはもちろん奏介である。大事(おおごと)にしてしまった方が良い、と。

「お、親なんて関係な」

「警察に怒られたらパパママもセットで怒られるの。そういう立場だって思い出した方が良いんじゃない?」

 反省の色なし。制服警官に動画を見せることにする。中二病の万能感で調子に乗りまくる彼女らのアイドル人生を潰すことに、容赦はしない。それだけのことをしたのだから。




 数十分後。

 赤松、友田、華村の三人は近くの交番に連れて行かれたようだ。親を呼び出して、お説教を食らうらしい。どこから嗅ぎつけたのか、そんな様子を撮ってネットへ流した人がいるらしく、公式ブログなどが炎上し始めていた。なんとも、情報が回るのが早い時代である。

 夕方、フェス会場出口にて。

 キリメと真理愛が見送りに来てくれた。

「ほんとにありがとう。すっきりしちゃった。遊び感覚の子供に罰を与えるのはちょっと罪悪感あるけど、衣装を駄目にされたのは営業妨害だし」

「ふふ。真理愛さんが明るくなって良かったです」

 ハルノは彼女に対して嬉しそうに言って、奏介にはウィンクをする。

「あ、あの。凄く手慣れてるっていうか……菅谷さんに頼んで良かったです。ありがとうございます」

 キリメは深く頭を下げる。

「びっくりするくらいクソガキだったわね。あれがアイドルかと思うと、ため息が出るわよ。でも、今回は暴走がなくて助かったわ」

 わかばは肩をすくめた。

「とりあえず橋間、後でじっくり話すか?」

「何でよ!?」

 奏介はため息を一つ。

「最後の真理愛さんの態度に驚いてたみたいですし、警察に連れて行かれる時は青い顔してましたし。一先ず、こちらの勝ちですね」

 奏介はそう言って笑う。キリメと真理愛に笑顔が戻った。良いことだ。

「君、ちょっと良いかな?」

 歩み寄ってきたのはいわゆるプロデューサーの中年男性だった。

「よかったら女優目指してみない?」

 奏介に言う彼は本気のようである。この大山直伝の美人顔なので、なんとなく分かる。

「菅谷さん、綺麗だもんね。良いんじゃない?」

「すみません、あまり目立つのは好きではないので」

「気が向いたら連絡してよ」

 とりあえず名刺を受け取る奏介。

「はぁ、分かりました」

 苦笑いを浮かべるしかない。

「あ、ハルノちゃんと……君名前忘れたけど、またよろしくね」

 そう言って、彼は離れて行った。

 奏介はふぅっと息をつく。

「はぁ、男のくせにあんたがスカウトされんのね」

「まぁ、自分で言うのもなんだけど美人だからな。大山先生がそうしたから納得だけど」

「わたしには見向きもしなかったし。はぁ〜」

 わかばは大分不満そうである。

「橋間さん、多分わたしと同じモデルだと思われてたみたいだけど」

「え!? マジですか!?」

「あの言い方はそうだと思う」

 そんな雑談をしつつ、

「じゃあ、気をつけて」

「ありがとうございました」

 改めてキリメと真理愛にお礼を言われ、帰宅することにした。

 と、その時。

「キリメ、終わったのか?」

 高校生らしい少年がキリメに声をかけてきた。

「あ、おそーいっ」

「仕方ないだろ」

 キリメが頬を膨らませる。なんとも子供っぽい仕草である。兄なのだろうか。 

 そんなことを思いつつ、今度こそフェス会場を後にした。

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