第137話念のための準備とモモの相談

 昼休みの風紀委員室。


 現時点で集合しているのは奏介、真崎、ヒナである。


セントセントナリア女学院?」


 奏介が口にした学校名にヒナは首を傾げる。


「そう。知り合いとかいない?」


 ヒナは少し考える素振りをし、


「かなりいるね。付き合いがある家の子もいる。何より、つかさが通ってる」


「野久保が?」


「僧院の知り合いがかなりいるって、超お嬢様学校だな」


 真崎が驚いた様子で言うと、ヒナは頷いた。


「そだね。あそこミッション系で校則が厳しめだよ。いかなる時も清楚であれ、淑女とはなんとか~みたいな標語を掲げてるし」


「制服可愛いよな。見かけるけど、良い意味で浮いてる」


 真崎は腕組みをして頷いた。


「で、それがどしたの?」


 ヒナが不思議そうに首を傾げる。


「ああ、最近喧嘩売ってきそうな奴が通ってるんだ。その時のために調べておこうと思って」


「あの学校に?」


「ああ、なんか頭悪そうだったから、うざ絡みしてきそうでさ。先手を打っておこうと思ってさ」


 奏介はスマホを見た。


 SNSをやっているらしく、本名での検索で一発だったのだ。


「自分に自信があるやつは凄いな」


 プロフィールまで乗せているため、日々の暮らしや動向が手に取るように分かってしまう。


「あー、こういう使い方してる人いるわよね」


「!」


 後ろから覗き込んできたのはわかばだった。


「なんだ、橋間か」


「そういう人って、リア友とメッセージ交換してる感覚なのよね。実際は世界中の人に見られて、さらに個人情報ばらまいてるわけだけど」


 肩をすくめる。隣にはモモが立っていて、目を瞬かせている。


「ふうむ」


 ヒナは顎に手を当てた。


「気になってるなら、ボクが調べてあげるよ。君の読みは当たりそうだしね」


「いや、さすがに任せるのは」


 ヒナは人指し指を立てた。


「代わりにモモの相談に乗ってほしいんだ。それなら良いでしょ? 交換条件」


 交換条件でなくてもモモの相談には乗るが、こう言われると、従うしかなくなる。


「ああ、じゃあ……。悪いな、僧院」


「オッケ、任された」


 ヒナはにひっと笑ってみせる。


 奏介はモモへ視線を向けた。


「それで、相談て」


「あ、ええ。実は」


「ねぇ、詩音と水果も来たから食べながらにしない?」


 わかばの提案に全員定位置へ。


「ああ、モモの相談てあれだろう? この前ちらっと話していた」


 水果が言う。どうやら一足先に聞いていたらしい。


 モモはこくりと頷いた。


「正直、わたしにはどうしようもないことで、菅谷君を巻き込むのは良くないと思ってるんだけど、頼れるのがあなたしかいなくて」


 不安そうに見つめてくるモモ。


「どうしようもないって、須貝自身のことじゃないってこと?」


 二度あることは三度ある、市塚父娘関係かと思っていた。


「ええ。……少し前にお金持ちが集まるパーティに出たの」


「ああ、その話ね。確かに菅谷が良いかも」


 わかばも聞いていたらしい。


「パーティってあの父親に言われて?」


「代理……っていうのかしら。お父様もイリカさんも出られないから、親戚として出席してほしいって言われてしまって」


「そりゃだいぶ難易度が高いミッションだなぁ」


 真崎がぼやく。


「それ、須貝が行かなきゃダメだったの?」


 言ってしまえば愛人の子供だ。どう考えても他に適任はいたのではないだろうか。


「あ、えと。生活費は出してもらってるし」


 それくらいの頼みは聞いてあげたいといったところだろうか。


 ヒナは片目を閉じてみせる。


「代理で家政婦達に行かせるより、親戚って言ってモモに行かせた方が面目立つんだよ。何より、モモは大人っぽいメイクするといい感じだしね!」


 見映えするということだろうか。華やかなドレスを着たモモの姿をなんとなく思い浮かべ、納得してしまった。


「べ、別にそういうことじゃないと思うけど」


「ふふ。でも、縁談の話も来たんだろう? 目立ってたってことじゃないのかい?」


 水果に言われ、モモは顔を赤くする。


「へぇ、そうなの? パーティで見て気に入った人がいたってこと? やるじゃない、モモ」


 わかばが感心したようにいう。


「そ、そういう話じゃなくて。……それで、パーティ主催者の娘さんと仲良くなったんだけど、なんだか私と同じ境遇みたいなの」


 モモの話をまとめるとこうだ。


 仲良くなったというその娘には弟と妹がいて、血が繋がっていない。長女である彼女をパーティー主催者夫婦は養子として引き取ったのだそう。


「もしかして」


 奏介は嫌な予感がして、モモに声をかけた。


「妹や弟とは仲がいいんだけど、両親からは養子だからって酷い扱いを受けてるみたい。あの時のわたしみたいに、我慢するしかないって思い込んでるのよ。……そんなことないのに」


 逃げる方法はきっとある。最悪、警察を利用すれば良いのだ。


「だから、菅谷君」


 じっと見つめられて、奏介は息をついた。


「なるほど、それで相談に乗ってほしいってことか。俺が首を突っ込む問題じゃない気がするけど」


「いや、あんたは首突っ込むのがアイデンティティーでしょ」


「いや、意味が分からない」


「そうか? 橋間の言ってることはなんとなく分かるけどな」


 真崎が半笑いで言ってくる。


「まぁ……わかったよ。話くらいなら聞きに行くよ」


 モモはぱっと表情を明るくした。


「ええ、ありがとう」


「うんうん。じゃあ、今回の付き添いはどうする? さすがにボク、自分ちと繋がりがある家で好き勝手出来ないから行けないけど」


「え、そう、なの?」


 途端にモモが不安そうになる。


「うん。立場上ね」


「おれは問題なく論外だよな。男二人ついてったらヤバイし」


「あ、ごめんなさい。針ケ谷君」


「いや、須貝が謝ることじゃねえって」


 真崎は苦笑気味だ。


「うーん、わかばと水果ちゃんは?」


「あたしはお金持ちと相性悪いの。別にそんなつもりないのにギャルっぽいとか言われるし。そこまでじゃないでしょ」


 モモは、しゅんとしてから、期待の目で水果を見る。


「あたしかい? 今日は近所の子を見る約束してるから悪いね。そこの居眠り娘で良いんじゃないかい?」


 お弁当を広げて、箸を持った状態で、詩音が寝ていた。『フラクタデイズ』の新刊を深夜まで読んでいたとのことだ。

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