第97話接客態度最低最悪の店員達に反抗してみた2

「え」


 真顔になる一村と東城。


「店長を呼んでこい。店長と話がある」


 奏介の侮蔑するような表情に後退る二人。


「しょ、少々お待ち下さい」


 一人で充分だろうに、彼らは二人揃って裏方へ入って行った。


「す、菅谷さん……」


 ぽかんとしているつかさと苦笑気味のヒナへ視線を向ける。


「これがヒナちゃんが言ってた必殺技?」


「そうそう、菅谷くんのもっとも得意とする顔面ロイヤルストレートフラッシュ」


「僧院、それっぽい技名をつけるな。ちょっとダサいぞ」


「えへへー」


「まったく」


 と、二人が初老の女性を連れて戻ってきた。その後ろから岩館が怪訝そうな顔でついて来る。


「お嬢様。おいで下さっていたのですね。お疲れ様でございます」


 店長らしき彼女は深々と頭を下げる。どうやら彼女はつかさをバカにするような態度を取ることはないらしい。


「それで、お嬢様のお友達……の方ですね? わたくしに何かご用でしょうか?」


 奏介は人差し指で一村と東城を指した。


「その人達が大事な社長の娘さんにバカだのアホだの死ねだの言いたい放題だったので、どういった接客の教育をされているのかなとお聞きしたかったんです」


 どうやら店長は知らなかったようでぽかんとする。


「一村君達が……?」


 と、一村が声をあげる。


「おいっ、捏造するなよっ、バカとか死ねなんて言ってないっ」


「そうよっ、あなたなんなの!?」


「客にため口ですか。ほんと、程度の低い教育をなさってるんですね」


 一村達は奏介の一言に思わず黙る。


「ほ、本当なの? そんな暴言をお嬢様に?」


 店長には良い顔をしていたのだろう。やり方が気にくわない。今は少年院にいるどこかのバカを思い出してムカついた。幸いなことに奏介達以外の客はいない。


「店長、私達はそんな酷いこと言ってません、言いがかりです」


「早く消えろ、社会のゴミとも言ってましたね。雇ってもらってる会社の社長の娘さんにどんだけ酷いことを」


「いい加減にしろよっ、俺達はデブとしか」


 奏介はぎろりと一村を睨んだ。


「デブも一緒なんだよ、このバカ野郎。お前ら、死ねはダメでデブは良いとか何基準なんだよ。どっちも悪口に変わらねぇだろうが。その言い訳をして何が変わるんだよ? デブだったら野久保は許してくれるだろう、なんて思ってるわけねぇよな!? 野久保を傷つけるために言ってたなら死ねもデブも一緒だ、クズ共」


 息を飲む三人。


「悪口しか楽しみがないなら仕方ないな、性格ねじ曲がってるお前らに話が通じるとは思ってねぇよ。ただな、客に取る態度じゃねえっつってんだ。せめて聞こえないところで言ってろ。それくらい守れないなら、接客業なんか止めちまえっ」


 その場がシンとなる。


「……だ、だって……この会社って、安月給じゃない。儲かってるくせに社長は私達を同じ給料で働かせて」


 東城がもごもごと言い訳を始める。


「だからなんだよ。野久保に関係ねぇんだよ。娘いじめる暇があったら高い給料の会社探して再就職してろ」


「い、いじめてないっ、てか、言いがかりだ。店長、あいつ、クレーマーってやつですよ。あることないこと言って、俺達を。……第一、証拠が」


 奏介、安定のスマホタップ。




『デブに似合うわけないじゃん』


『だよなぁ?』




『あんな体で試着して、売り物なのに伸びちゃわないの?』


『引っ張ってるのと同じだもんな!』




 録音音声が流れ、店長が目を見開く。


 一村達が慌てる。


「ち、違う。これはお嬢様のことを言ってるわけじゃ」


「僧院、動画」


「うぃっす。君といるときは録音録画基本だよね」


 一村達が青ざめる。


「ろ、録画?」


 一村達が視線をつかさに向けて、にやにや笑いながら悪口を言っている……そんな感じの動画である。


「ま、待ってよ。私達は……そう。


あのハゲ社長が気にくわないの。お嬢様に当たってたことは謝るわ」


 つかさはうつむいて、東城の前へ。胸ぐらを掴む。


「へ?」


「何言うとんのや?」


 低い声、下から睨み上げるつかさ。


「私の悪口言うんはええけど、うちの親父をけなすんは許せんわ。どんだけ頑張って会社を大きくしたと思てんねん。親父はあんたらを会社に入れたくて入れたんとちゃうで? あんたらが入社したい言うたから入れたんや。文句があるなら親父の前で言わんかいっ」


 中々迫力がある罵倒だった。


 つかさは東城を突き放すと、


「あんたらが社長に不満があることはわかったわ。これ以上暴れられたらかなわんからな。社長と直接話せる機会を作ったる。待っとき」


 その後、店長は平謝りだった。従業員の行動を把握していなかった彼女の責任もあるだろう。それはそれとして、二人は説教を受けるべく、裏方へ連れていかれたのだった。


 見送りに出てくれたのは岩館である。


「お嬢様、力になれなくて申し訳ありませんでした。注意をしてもなめられてしまっていたので」


 申し訳なさそうに頭を下げる。


「ええよ。岩館さんはちゃんと接客してくれてたやん。ありがとうな」


 店を後にする。帰り際に奏介とヒナもお礼を言われた。




 駅舎前にて。


「どうどう? 凄いでしょ、菅谷くん。うちの学校の風紀委員会の秘密兵器なんだよ」


「だから、僧院。変な紹介の仕方するなよ」


 そんなやり取りをしていると、つかさが笑っていた。


「なんかスカッとしたわ。絶対に揉め事になんの分かってんのに躊躇いとかないんやな」


「揉め事上等だからな。むしろ起こしてく」


「なんや、味方してくれて心強かったわ。菅谷君、ありがとうな。ヒナちゃんも。今度また、三人で食事でもしようや」


 そこで、つかさとは別れた。






 奏介とヒナは並んで座席に座る。


「いやぁ、さすがお悩み相談窓口だね。お見事」


「あんまり、それ言いふらすなよ?」


「大丈夫。ボクもほんとに仲良くないとそんな話しないし」


「でもまぁ、あんな感じなら解決しそうだな」


「つかさは強い子だからね」


 背中を押せたのなら、よしとしよう。

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