第85話市塚父娘after4
イリカが動揺したようにたじろぐ。
「は? いきなりなんですの?」
「さっき玄関で、頭に雑巾落とされたんだよ。で、今はそこの家政婦二人にバケツの水と雑巾かけられた。それ指示したのお前だよな? 普通に犯罪だぞ」
「たかが雑巾くらいで何を言い出すかと思えば」
奏介は目を細めた。
「次は包丁か漬物石を落とせとでも指示してたんだろ? 殺人未遂だろ。俺達を殺す気だったんじゃないか?」
「何を言っていますの!? そんな指示を出すわけがないでしょう!? 妄想も大概にしてほしいですわね」
「出すわけないって、信用出来ないな。なんでお前の言葉を信用しなきゃならないんだ? 客に雑巾落とすような家政婦が次に何を落としてもおかしくないだろ。そんな指示を出してないって証明できるのか? それに、まったく事情を知らない他人の頭に物を落とすって行為自体アウトなんだよ。雑巾でも包丁でも同じだろ」
「っ! 相変わらず口が達者ですこと」
「まずはそこの家政婦達の粗そうをお前が謝罪しろ。指示出したんだろ? そいつらに給料払ってるわけでもねぇ癖に随分と仲良しだよな。いじめっこグループが子持ちのおばさん二人と高校生のガキって、笑えるな」
三人の表情がピリつく。
「なんだよ、そいつらのイタズラの後始末も出来ないのか?」
「……」
「へぇ、なるほど、そこの二人はイリカお嬢様の指示ではなく個人的な趣味でやったってことか? そういうことで良いんだな?」
家政婦達は顔を見合わせる。
「よし、僧院。バケツと雑巾が須貝の上に落ちてきて、俺が庇って水を被り、こいつらがあーらごめんなさいとか言いながらドヤ顔で出てきた動画、須貝の親父さんに送ってやれ」
「おっけ、了解ー。モモ、お父さんのアドレス教えて」
「え……」
家政婦達の表情がこの上なく歪む。
「ど、動画?」
イリカが動揺したように呟く。
「ああ、犯罪の証拠はきちんと残さないとな。絶対やると思ってたよ」
「モモ、とりあえずこの家政婦達クビにしてって頼んでみたら? こいつらヤバイもん。次何やらかすかわかんないし」
ヒナが冷めた表情で言う。
「うん、言ってみる」
父親のあの様子なら、ある程度希望が通るだろう。
「ねぇ、菅谷。録音はどうするの?」
わかばが自分のスマホをタップする。
『あーら、ごめんなさーい? 変なところにバケツを置いておいたからかしら?』
『あらあら、濡れちゃって申し訳ないわぁ』
「一緒に送ってやれ。変なところにバケツ置いたポンコツ家政婦の証言だからな」
家政婦達は青ざめて行く。
「さて、お前らクビになるかも知れないな。良くてお叱りと減給かな? そうなりたくなかったら、そこのイリカお嬢様に頼んでみろよ。私達を庇って下さいって」
奏介はイリカを見る。
「そこの家政婦達を庇うなら父親に叱られるのはお前ってことになるな。そしたらなんて言い訳するんだ? 考えとけよ」
この場がしんとなる。
イリカも家政婦達も何も言えないようだ。お互いに顔を見合わせることも出来ないらしい。
「送ったか?」
ヒナが親指を立てる。
「ばっちり! 動画添えてあることないこと書いて送ったよ」
と、イリカが口を開く。
「わ、私は、何も指示なんか……だしてない」
家政婦達が泣きそうな表情になる。
「へぇ、そこの家政婦を見捨てるのか。良い判断だな。それで、家政婦さん達はどうする? イリカお嬢様の裏切りで最悪クビかもしれないけど、お嬢様のためなら何も言わずに罰を受けるのか?」
イリカは、はっとしたように家政婦達を見る。
「あ、あなた達、私のことをお父様に言ったら承知しませんよっ」
「お、お嬢様っ、私達はお嬢様の言いつけでこんなことを」
「う、うるさいっ、あなた達が勝手にやったことでしょう!?」
「お嬢様のお願いだからこそ、やったのですよ!?」
奏介は三人を見やる。
「さ、行こう。付き合いきれないからな」
「はーい。あーあ、醜いねぇ。信頼関係皆無じゃん」
ヒナが言う。
四人はそのまま離れへと向かう。
「何あれ、恐ろしいんだけど」
わかばが身震いする。
「橋間、悪いことをする時に協定を結ぶ時は気をつけろよ?」
「な、なんであたしに言うのよ」
「心当たりあるだろ」
「は、反省してるからっ! すごいしてるっ!」
「ボクもしてるよ! また土下座しても良いとかちょっと思ってるよ!」
「わかったわかった」
二人と戯れていると、モモが奏介を呼んだ。
「ありがとう。また助けてもらって。もう少し、自分の口から言えるように頑張るわ」
「今日は言えてたからな。須貝なら大丈夫だ」
「うん」
後日、家政婦達は数日の謹慎と減給、イリカはかなりキツく叱られ、家政婦達がイリカの悪口をネットに書き込むに至ったらしい。クビになっていたら市塚の誹謗中傷をバラ巻かれていた可能性が高いので、その判断はさすが経営者といったところだろうか。
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