第4話バイト先の料理長にいじめられたので反抗してみた2

 しばし睨み合う。散々一方的にいじめてきた相手に反論されて、面食らったようだ。


「っ、入った時から気に食わなかったが、やっぱり礼儀知らずのクソガキじゃねぇかっ、この薄鈍が、ただじゃおかねぇぞ」


 拳を振り上げる料理長。厨房や裏にいたスタッフもこの言い争いに目を見開いてみている。


「殴ったら傷害罪な。警察呼ぶぞ」


 料理長はぴたりと動きを止めた。その様子を奏介が冷ややかに見る。


「ハゲにも理性があったんだな? 別に俺が怪我するまで殴っても良いんだぞ? 間違いなくここで働けなくなるけどな」


「てめぇなんかを殴って捕まるなんざ、バカらしい」


「なんだ、思ったより頭いいな。バカの割には」


「なんだと?」


 唸るように言う。


「バカだろ? 客の前で従業員を罵った上に客を客じゃないなんて発言するんだからな」


 奏介は詩音へ視線を向けた。


「しお、これSNSに流していいぞ」


 自分のスマホを渡す。


「へ?」


「今の発言録音しといた。ついでに今までの暴言も全部取ってある。警察は動かないだろうけど、ネットに放り投げたらどうなるかくらいわかるだろ?」


「こ、この野郎」


 そんなやり取りをしていると、奥からマネージャーが出てきた。


「ちょっと、何をしているの?」


「おう、マネージャー、またこいつがやらかしやがってな」


 すると彼女が睨み付けてきた。


「菅谷君、またあなた? 本当にいい加減に」


「だまってろババア」


「へ……?」


 奏介の豹変ぶりにマネージャーも動きが止まる。


「な、何を」


「うるさいって言ってんだよ。そのキンキンした声で喋るな。頭痛がしてくるわ」


「あ、あなた、私に向かって……。もういいわ、今日限りでクビよ。我慢の限界だわっ」


 こういえば謝ってくるとでも思ったのだろう。しかし、奏介は舌打ちをした。


「うざ。最初からお前は我慢なんてしてねーだろ」


「な……! 目上の人間にその口のきき方はなんなの?」


 奏介は水果へ視線を向ける。


「まぁ、こんな状態なんだよ」


「いや、これって結構深刻じゃない? あんたよくやってるね」


「また奏ちゃんが大変なことになってる……」


 詩音が面白いほどおろおろしていた。


「き、聞いてるの?」


 完全無視されたのが効いたのかマネージャーも戸惑い気味だ。


「なんでお前の話を聞かなきゃならないんだよ。そんな義理ないだろ。思い上がるな」


「なんですって……?」


 すると水果が立ち上がった。


「まぁ、まぁ。実は菅谷クンは止めてくれたんですよー。このハゲオヤジに『お前らメスガキなんか客じゃねぇんだよ。さっさと帰れタコ』って怒鳴られて詩音……この子なんか泣いちゃってたから」


 マネージャーは顔を引きつらせた。


「そ、そんなこと言ったの? お客様に?」


 すると料理長は慌てる。


「い、言ってねぇっ、こいつらは菅谷の知り合いだから」


「は? 俺の知り合いだからなんだよ」


 料理長は次の言葉が出てこないようだ。


「えーっと、あなたが店長さんですか?」


 水果が笑顔で首を傾げる。


「そ、そんなようなものだけど」


「あなたのところの従業員、特にこのおじさん、教育がなってないんじゃないかい? お客さんにこんな態度とっていいと思ってるわけ? あたしら、客なの。客。子供でもなんでもお金払う立場の人間にその対応はないんじゃない?」


「も、申し訳ありません」


「申し訳ありませんで済んだら、警察はいらないってね。どうしてくれんの? 気分わるいんだけど」


 水果は笑顔で追い討ちをかける。


「う……本当に申し訳ありません。あなたも謝って」


「なんで俺が謝んなきゃなんねぇんだ。こいつらは菅谷の」


「おじさんはあたしらと菅谷が知り合いだから暴言吐いてるんだっけ? この店って客を差別すんの?」


 ついに二人とも黙ってしまった。


「反論できなくなるなら噛みついてくんなよ」


 奏介は言って、


「で、俺はクビでしたよね? 今日限りってことで、さようなら」


「あたしらも帰ろっか。こんな店で食事したくないしね」


「う、うん」


 水果の加勢もあり、この職場とはおさらばだ。

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