第11話

チリン・・・

 朝日が昇る頃、店の周囲を掃き清める。ん、今朝もいい天気だ。放射冷却が利いた朝の空気に眠気が霧散する。


「おはようございます。」


 いつもの青年が声をかけてくる。

「おはようございます。今日はずいぶん早いですね。」

「ええ、今日はこれから出張でして。」

「それはそれは・・・。お食事は?」

「できますか?」

「もちろん。」


 今日もモーニングはホットサンドだ。マッシュした芋にハムとチーズをパンに挟む。付け合わせにトマトとマカロニサラダ、デザートにカットバナナを添え、ホットコーヒーと共に出す。今日のコーヒーはマンデリン。


「ふふっ。今日も美味しいです。」

「ありがとうございます。今日はどちらに?」

「それがですねー東京なんですよー。」


 東京か・・・。新幹線を使えば2時間もかからない、遠くはないが近くもないな。学生時代などに行ったあの店などはまだ健在だろうか。少し当時を懐かしく思う。


「本社への出張なんですがねぇ。あのつまらない会議に出なければ行けないかと思うとあまり気が乗りませんね。」

「勤め人の厳しいところですね。」

「それで給料をもらっているわけですが、妥当なのかどうなのか・・・。」


 少し不満げな様子だ。どれくらい出ているのかはわからないが、少なくとも現状で満足しているわけではなさそうだ。転職といえどそう簡単でもないし、なかなか難しい問題だな。

 

チリン・・・

「いらっしゃいませ。」

「おはよう!今日はハニートーストで!」


 甘蔵さんは相変わらずである。この人も通勤時間がやたら長いが、転職はしないのだろうか?

「そういえば、甘蔵さんは転職はされないのですか?」

「藪から棒に一体?」

「ああいえ、通勤時間がずいぶん長いので転職なさったりしないのかと。」

「あー俺も聞いてみたいです!」

「転職できるならね、してますよ。ただこの齢になるとなかなか次の職場がないので、私には伝手も技術もないので定年までこのままになるんじゃないかと思います。」


 なかなかに難しいな。爽やかな朝の空気とは裏腹に重苦しい雰囲気になる。

「というわけでですね、冒険するなら早いうちがいいですよ。やり直しが利くうちにね」

「・・・あっ、はい。肝に銘じておきます。」


 神妙な顔つきで青年が受ける。

「っと、すみません。空気を重くしてしまいましたね。落ち込んだときは美味しい物を食べて身体を動かしてしっかり寝る!これですよ。では、私は通勤電車で寝ますのでこれで。」

「あっ!私もそろそろ行かないと!ごちそうさまですっ!」


 青年が残ったコーヒーを慌てて飲み、駆けていく。忙しい朝に賑やかな音が溢れていく。

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