喫茶居酒屋「雑談」
海胆の人
第1話
~某所~
チリンチリン!
「いらっしゃい。今日はお早いですね。」
「よう大将!今日も元気そうだな。」
「おかげさまでね。で、今日は何にされますか?」
「そうだね、いつものお湯割りで。お湯はうんと熱く。」
ここは喫茶居酒屋、特に屋号は決めていない。カウンターだけだが喫茶居酒屋の通り、ソフトドリンクからアルコール、食事も簡単なものなら提供する。比較的年配の常連さんが多いからか、日本酒やウイスキー、焼酎などが比較的多く出る。常連さんたちは皆顔なじみで、雑談に花を咲かせていく。そんなどこにでもあるような小さな店だ。
「そういえばさ、最近環境大臣が環境問題とかでいろいろ要らんことやっているようだな。」
「あぁ・・・、セクシーな方ですね・・・。」
「あの大臣や環境省はどうもアレな連中のようだが、我々としてもあんまり暑くなるのは困るだろ?」
「それはそうですね。近年は暑すぎてどうにもなりませんね。」
「そこで、だ。我々でもできるような温暖化対策を考えてみてはどうかと思ったんだよ。」
「鍛高譚のお湯割りです。・・・で、なにか妙案でもあるのですか?」
「いやぁそれはまだ思いついていないんだがね・・・」
この方はお湯割りをよく召し上がる常連の一人だ。熱い湯で割るので、ついたあだ名は熱湯さん。
「和尚さんや、なにか妙案はないですかね?」
カウンターの端に座るは、筋肉ではちきれんばかりの坊主頭。これで和尚をしているっていうのだが、悪霊も肉体言語で成仏させそうである。
「わしに振るのか・・・。ふむ、そうじゃのぅ・・・一般的なことはもうしておるからのう。」
そう言うと和尚さんは一休法師も斯くやと言わんばかりに瞑想しだす。どこからかポクポクポクチーン!と聞こえてきそうだ。
「それでは、これはどうじゃろう?冷えるような話をすればよいのではないか?」
「なるほど、言葉の力で空間を冷やすと言ったものですな。よくあるのは怪談噺とかですかね?」
「私はあまり怪談話は得意ではないので、あまり存じません。他には寒すぎる駄洒落とかでしょうか?」
「そりゃあ面白いの。しかし、拙僧は駄洒落にとんと縁がなくての・・・」
「そんなこと言ってえーんかい?」
「いやぁ熱湯さん、ひどい駄洒落ですな・・・。」
チリリン!
「なんかひどい駄洒落が聞こえた気がした・・・!」
「これはこれは、因幡さん。いらっしゃい。何にされますか?」
こちらは因幡さん。鳥取出身で兎を飼っているから因幡さんと呼ばれるようになった。よく二輪でどこかに行っている。何かとツッコミ役になってくれるありがたい人材だ。
「そうだな、ビールと枝豆を。」
「かしこまりました。ビールはどちらのにされますか?」
「今日は暑いから・・・アサヒだね。」
うちのような小さい店ではサーバーを維持できないので瓶ビールでの提供だ。面倒な掃除の手間もないし、特に悪いこともない。
トトトトト・・・シュワァ・・・
「くぅ~!この一杯のためにクソみたいな仕事ができるってもんよ!で、なんの話してたんだ?」
「熱湯さんが温暖化対策を考えようと仰って、和尚さんが駄洒落で応えたところですよ。」
「ダジャレを言うのはだれじゃ!」
「おぉ・・・寒い寒い。和尚、寒いよ」
因幡さんと熱湯さんが思わず寒がるような仕草をする。
「これだけ寒い駄洒落が出てくるようなら温暖化防止にも一役買いそうですね。」
「駄洒落に地球が怒りそうだな!」
「火山を爆発させるかな!?」
「溶けた氷の中に恐竜がいたらなにか芸でも仕込むのじゃ!」
こんなくだらない雑談を繰り返す。それが当店、喫茶居酒屋。今宵も夜更けまで駄洒落と雑談の奈落を遊ぶ。
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