第57話 終結



『これで終わりだ!』


動けない俺を庇う様にヒナが覆い被さる。


そんな2人に歩み寄る海斗アレハンドロ。そしてそのまま2人ごと斬り伏せ様と斬馬刀を振り上げる。


「ひ、ヒナ…… お前だけでも……」


「優畄、死ぬ時は一緒だよ!」


やっぱりヒナさんはブレない。こんな俺のために命をとしてくれる……。


(ヒナ……)


せめて死ぬ時ぐらいは一緒に行こう。



海斗アレハンドロが振り上げた斬馬刀を振り下ろそうとしたその時、''甚黒魔皇石''を触った時に感じた力。暗黒の波動と似た力が一瞬で島中を覆ったのだ。


その現象の後、まるで時間でも止まったかの様に、全ての動きを止める幽鬼達。それは海斗アレハンドロも例外ではなかった。


優作の犠牲で代官屋敷へ辿り着いた美優子が、供養塔に浄化の火を灯したのだ。


過去に何度も経験している忌まわしき現象。自分達が漆黒の闇の中に封印される時の忘れ難き不快感。



『グォ…… お、己れぇぇ!』



凄まじい執念。本来なら幽鬼は指すらも動かす事が出来ない黒石の力のはずだが、震える手で斬馬刀を下ろそうとする海斗アレハンドロ。


だが彼に出来た抵抗はそこまでだった。


浄化の火が付けられた代官屋敷に近い幽鬼から、徐々に体が崩壊していく。


『…… グッ…… オッ、む、無念…… 黒石の……絶滅を、再び………』


そして海斗アレハンドロは鬼の形相のままに、静かに崩れ散っていった。


最後に彼の斬馬刀がガランとばかりに地面に落ちる。その様はまるで、海斗アレハンドロの無念さを表している様だった。


「優畄!」


ヒナが優畄をちからいっぱい抱きしめる。


「ヒナ…… あ、終わったのか?」


「きっと美優子ちゃん達が浄化の火を灯してくれたんだよ」


ヒナは俺と共に生き残れたのが心底嬉しいのか、円満の笑みをしている。


「そ、そうか…… なら、よかった……な……」


そうとだけ言い残して優は気絶してしまったのだ。姿も元の姿に戻っている。


「優畄! 大丈夫だからね、私が絶対に助けるからね」


ヒナは優畄を背負うと、最後の力を振り絞り美優子が居る代官屋敷へと歩き出した。



ーーー



その頃、ある海岸の砂浜に2体の幽鬼は居た。


何をするでなく2体で寄り添い合い、座って海の上の星空を見ているのだ。


月の明かりの下、岩肌に打ち付ける波音がBGMの様に彼等の時間を彩る。


その海岸は生前に彼等が、結婚した暁に家を建てる予定をしていた場所なのだ。



『…… よい眺めだな雪乃よ』


『はい、旦那様。雪乃もこの眺めが大好きでございます』


会話はそれ以上続かなかったが、彼等には逆にその方が良かった。


彼等だけの大切な時間。100年間そうしてきたのだ、今更彼等に言葉なぞ必要は無かった。


だが、そんな彼等の大切な瞬間にも、終止符を打つ時がやってきた。


暗黒の封印の波動が彼等の元にも届いたのだ。それと共に徐々に体が動かなくなっていく2体。



『…… お頭様、我があの場に居れば…… いや、これも我等の運命だったのであろう……』


『旦那様……』


両手が使えない三芳リカルドは、最後に愛しい雪乃の頬に口付けをした。


本来なら体を動かす事すら出来ない中、最後の力を振り絞り、雪乃に最後の別れを告げたのだ。


そして、彼の体が徐々に崩壊していく……


『…… さ、先に…… 行っておるぞ、雪乃…… 五十年後に……再び……』


優畄達との戦いでダメージを負っていた三芳リカルドの方から先に消滅していく。


1人残された雪乃の頬を涙が伝う。


そして彼女の体もまた、少しずつ崩壊していく。


『…… 旦那様…… こ、この百年……雪乃は、とても…… 幸せでした……』


一雫の涙が落ちると同時に彼女の体もチリと消えていく……。そして波が打ち付ける音と月明かりだけが、彼等がいた海岸を照らしていた。



その2体が消滅した場所に、フラフラと歩み寄る者が居た。


『……ガゥガアアア〜〜!!』


そして悲痛の叫びを上げる。


歩き慣れない体で、三芳リカルドと雪乃を追って来た彼等の子供が、両親が消滅し消えていく様を見ていたのだ。


そして月明かりに照らされた、そのおぞましい姿が露わに成る。


その顔の見た目は、一見7〜8歳の普通の少年の様だが、頭が縦に口の様に裂けており、鋭く細い八重歯が幾本も折り重なる様に生えている。


その大きな口が涎を垂らしながら、ガチャガチャと閉じたり開いたりしており、その様はおぞましいの一言だ。


腕が猿の様に長く、足は逆に短い。肩が異様に発達している事から、猿の様に腕を利用して移動するのだろう。


相反する黒石と幽鬼の血が混ざった結果の異形の極み。

彼は体の構造上、言葉を喋る事が出来ない。それでも両親の消滅は理解出来たらしく、悲痛な叫びをあげる。


(父様! 母様! どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして……)


彼には幽鬼の血も、黒石の血も流れている。


彼もあの暗黒の波動を感じていた。そしてその波動と同じ様な感覚が島の中にある事に気付いていた。


(…… 父様と母様は、あの嫌な感じで消えたんだ! よくもオイラの父様と母様を!)


この者達のせいで両親が消えたと悟ると、いままで感じた事のない感情、怒りが彼を突き動かす。



『グォガアアアアアアア〜〜!!』


彼は怒りの雄叫びを上げると、両親を消滅させた暗黒の波動に似た感じのする代官屋敷に向かって走り出した。












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