第52話 救出大作戦



弓夜達の救出のため代官屋敷に急ぐ優畄達。


横穴の基地から代官屋敷まではおよそ10km。優畄達が代官屋敷へ向かう道中、一度も幽鬼に出会わなかった。


それは全ての幽鬼が、代官屋敷前にて優畄達を待ち構えているという事。


「代官屋敷前にはほぼ全ての幽鬼が集まっていると考えた方がいい」


「うん。でも今の私達なら」


「ああ、狙うは幽鬼達の頭領の海斗アレハンドロだ」

「まず私が火ダルマ大作戦だね!」


「ああ」


時刻は夕方の5時半、2人の処刑の時刻まであと30分。


「結局、優作君は来なかったな……」


「…… あんな臆病で卑怯な奴は必要ないわ。お兄ちゃん達は私1人でなんとかする。優畄君達は無理をしないでね」


「……」


やはり2人の間で何かあった様だ。何があったのか聞いてみたい気もするが、今はそんな暇はない。


「この作戦を成功させて、絶対に皆んなで帰ろうよ!」


この空気を嫌った美優子が話題を帰る。


「うん美優子ちゃん。来た時みたいに皆な一緒に帰ろうね!」


僕達は作戦通りに美優子と分かれると、正面からの陽動作戦にでる。


「さあ行こうヒナ!」


「うん。2人を助けよう!」


僕はいま変化出来る最強の狼男に変化する。そして獣を狙うハンターの様に低く構え、幽鬼達が築いた砦に向い駆け出す。


そして狼男のスキルの一つ"怒りのキャノンボール"を放ったのだ。


この技は鋼の体毛で覆われた体を、ゴム毬の様に丸めてぶち当たるというシンプルな技だ。


名前こそコメディーの様だが、500kgの鉄球が時速100kmのスピードでぶち当たるに等しいその威力は言わずもがな。幽鬼達の築いた砦はまるでミサイルが撃ち込まれかの様に爆砕する。


何事かと警戒していた幽鬼達がその破壊された砦の前に集まってくる。


「ヒナ頼んだぞ!」


それと同時にヒナが、あの横穴の基地にあったウォーターバイクから抜いたガソリン入りのポリタンクを、幽鬼の頭上に投げ込む。


そしてガソリンを全身に浴び何事かと戸惑う幽鬼達に火を放ったのだ。


『『『ギィヤアアァァァーー!!』』』


ガソリンは揮発性が高いため、あっという間に火が幽鬼達を飲み込んでいく。


『ぬうっ、燃える水か。小癪な!』


ヒナの火ダルマ大作戦のスキに、海斗アレハンドロの死角に回り込んでいた僕は、すかさず''怒りの鉄拳''を脇腹に向けて放つ。


この技は咄嗟とはいえ、三芳リカルドの腕を粉砕した威力がある。タイミング的には完璧だと思われたその攻撃を、海斗アレハンドロは斬馬刀の峰にて防いだのだ。


それも優畄のパンチの威力を逸らす受け方なため、刀にも本人にもダメージはない様子。


(こいつ、マジかよ!)


優畄は戦う事においては素人だ。彼が出来るのは能力に頼ったゴリ押しと、相手の隙を突いた奇襲に頼るしかない。


ゆえ技量で優る相手にはとことん相性が悪い。


攻撃をいなされて体制が崩れた優畄に海斗アレハンドロの横なぎの豪剣が迫る。


(クッ! 避けきれない)


そんな優畄のピンチを放っておくわけがないヒナは、交わし辛い突きによる攻撃で海斗アレハンドロを牽制していく。


「ヒナ!」


そのヒナの鋭い突きも、斬馬刀を返しその腹で盾の様に受け止める海斗アレハンドロ。どうやらこの幽鬼も生前になんらかの剣技の心得がある様だ。


『ヌウッ!』


2対1は分が悪いと判断し、僕の追撃の蹴りに合わせる様に飛び退くと彼は、僕等が追随出来ない様に斬馬刀で空を割った。


その一振りで僕達は追撃のチャンスを逃す。


海斗アレハンドロは僕等が、代官屋敷に辿り着けないよう立ち回っている。それに幽鬼達も結界のまえに陣取っているため直に乗り込む事は

無理そうだ。



海斗アレハンドロ、かつての名はアレハンドロ.デ.カストレオ。スペイン王国に仕える騎士だった男だ。


黄金の国探索の命を受けて海を渡った彼。


生前の彼は数多くの武勇でその名を轟かせ、リカルドをはじめ、慕い付き従う者も多かった。


この遠征に着いて来た者の殆どがそうゆう者達であり、彼のためなら命を捨てる事を惜しまない者達だ。

そんな彼が仲間を思う気持ちは計り知れない。


海斗アレハンドロは優畄達を一睨みした後、ゆっくりとその口を開いた。


『黒石の者達よ、貴様らに問いたい。なぜ我等の安らぎを邪魔する? 我等はこの島からは出れぬ。我等はただ生前の様に日々の生活を営んでいただけなのだ。それなのに何故そっとしておいてくれぬのだ?』


「……」


海斗アレハンドロからの問いかけは予想外の事だった。


そして僕は何も応えられない。


事実、彼等は僕等が来る前は、生前の様に島で漁などをして暮らしていただけなのだ。


彼等は呪いのため島から出ることも死ぬことも出来ない。


50年の周期で蘇る彼等を待つのは黒石による無慈悲な討伐による封印だけ、それを500年の間繰り返して来た。


そしてこの平和だった百年は、彼等幽鬼がやっと得た安らぎの時だったのだ。


それを邪魔する憎き黒石の血族。


彼等幽鬼にとって黒石は侵略者以外の何者でもない。彼等はただ自らの家族を、生活を守るために戦っているだけなのだ。


実際に僕等も彼等を殺める事に何の躊躇も無かった。それは彼等が悪で僕達が正義だと勝手に思い込んでいたからだ。


『答えられぬであろう黒石の者よ、やはり貴様等とは決して分かり合う事はないのだ!』


次の瞬間、海斗アレハンドロの体から赤黒い妖気が立ち上がる。


そして2mの海斗アレハンドロの体が倍に膨れ上がる。その目が赤黒く怪しく瞬く。


『貴様等に殺された我が同胞、その嘆きを我は体現する! そしてこの力で貴様等を滅してくれ様ぞ!!』


海斗アレハンドロの額からは巨大な一本角が生えており、体は怒りで赤く染まっている。


それはまさに伝説の鬼そのもの、彼は僕等に倒された仲間の力を自らに取り入れる事で、戦鬼羅刹へと進化したのだ。


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