絶体絶命アビスチルドレン! ~地下世界に追放されたけどドラゴンパワーと双子の妹の力を合わせて成り上がる! お世話になった大人の皆さん、どうぞ覚悟していてください!~

ベッド=マン

【一章】そして少年は竜となった

第零話 プロローグ

 少年が重い目蓋を開けると、そこは暗闇だった。

 備え付けられた小さな格子窓から月光が射し込み、夜空の風景が絶えず横に流れていく。

 まだ意識もままならない中で脳が周囲の情報を拾おうとする。 するとまず自身の体が小刻みに揺れていることに気がつき、そして次にその振動が自分だけでなくこの空間全体に及んでいることを理解する。

 「ん……」

 おもむろに声を出そうとする。 喉が乾いているのか、発音がままならない。

 そんな少年の右隣から声をかける者がいた。

 「おっ、やっと起きたか」

 「君は……?」

 「おいおい、君なんてえらく他人行儀じゃないか。 俺だよ、リオンだよ。長いこと眠りすぎて忘れてしまったか?」

 リオンと自ら名乗る少年はとても陽気な調子であるが、少年は相変わらず陰鬱だった。

 何かを思い出そうとすると軋むような痛みが頭を襲うのだ。呼吸を少し乱しながら少年は答えた。

 「リオン? ごめん、覚えてないや…… 君のことだけじゃなくて、どうやら俺自身についても記憶がない。 俺達は、その、友達、なのかな?」

 少年が訊ねると、リオンの口角がほんの僅かに上がる。

 「ああそうさ。 俺とおまえは大親友。 今まで苦楽を共にしてきた唯一無二の存在だ」

 「大親友、そうか…… とても良い響きだ。それじゃあもう一つ聞きたいんだけど、ここはいったいどこなんだ? とても暗くて、あと少し臭う。 何も見えないからそれ以外わからない」

 「俺達は今輸送列車の貨物庫に閉じ込められているんだ」

 「閉じ込められている? あまり良い響きじゃないな。もしかして俺達は誘拐でもされているのか」

 少し真剣な目差しになる少年。 そんな少年を落ち着かせるように、リオンは手振りを交えながら答えた。

 「ああいや、すまん訂正させてくれ。閉じ込められているっていうのは少し語弊があった。 正しくは俺達は自分の意思でこの列車に乗り込み、今とある場所に向かっている。決して無理矢理だなんてことはない。 暗いだとか臭いだとか、環境がちょっと劣悪なのは、色々ワケがあるんだ」

 「ワケ? それにとある場所っていったい……」

 少年が続けて問おうとすると、自分の左側、つまりリオンとは逆の位置に誰かの気配があることに気がつく。

 「ん……」

 少し高い声は、少年とは違う女性のもの。 フードの奥から見えるのは、リオンと同い年か少し幼いくらいの少女だった。

 「こっちもお目覚めか」

 「リオン、彼女は?」

 少年は当然のようにリオンに聞いた。 しかしリオンは答えるよりも先に頭を抱え天を仰ぎ嘆いた。

 「オーマイガー…… 妹のことまで忘れちまったっていうのか? 大事な大事な、今となっちゃ唯一の肉親だっていうのに」

 「妹? 俺のか?」

 少年は改めて少女の顔を覗いてみるが、やはり知っていることは何もなかった。またも訪れる頭痛に短い悲鳴を上げて困っていると、少女が口を開く。

 「あなた達は誰?」

 リオンはまたも天井を見上げた。 これ以上首は曲がらないだろうという限界まで見上げた。

 一々リアクションの大きい奴だ。 そんなことを少年が思っていると、数秒を要してなんとか落ち着いたリオンが一つ呼吸を整えてから二人に言う。

 「あのな? 最初から説明するがおまえ達は双子の兄妹なんだ。ジャミチャって田舎町の農家の子供だったが、町が賊に襲われた。悲しいことに家は燃やされ俺達の親はみんな殺されてしまった。身寄りが無いんだ。この国じゃそういう子供達は決まってとある場所に送られそこで働くことになっている。悪く言えば追放されたとも言えるがな。俺達が今輸送列車で向かっているのもそこだ」

 リオンが一呼吸でそこまで説明して、少年は自分の質問にまだ答えてもらっていないことを思い出す。

 「その、とある場所って?」

 リオンは少し難しそうな顔をして言った。

 「ダンジョンさ」

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