第173話
冒険者ギルドに向かうと、入口でギルドマスターのロウディさんと
コートの雪を払ってる所を見る感じ、ちょうど帰ってきたところっぽい。
「おや、オウカさん。お久しぶりです。良いタイミングでしたね。たった今、店舗の視察から戻ったところだったんですよ」
「おっと、そうなんですか」
それは確かに良いタイミングだわ。
「良ければその件でお話したいのですが、宜しいですか?」
「わ。ぜひぜひ」
「では少しお待ちください。準備をして参りますので……ああ、アルカ。済まないが別室でオウカさんに紅茶をお出ししてください」
「はぁい…ちょっと待っててねぇ…」
「ありがとーございます」
アルカさんにいれてもらった温かな紅茶を頂きながら待つこと二十分ほど。
いくつかの書類を持ったロウディさんが、知らない女性と一緒に部屋に入ってきた。
……誰だろ。これまた美人さんだけど、服装がカッチリしてんなー。
凄い仕事出来そうな感じがする。
けど、こっちを見る目が、ちょっと怖いような。
「オウカさん、お待たせしました。こちらはシルビアさん。フリドール支店の店長を勤めて頂く方です」
「シルビアです。普段は孤児院の副院長をやってるわ」
「あ、オウカです。王都で冒険者やってます」
「ええ、知ってるわよ。この間は会えなくて残念だったわ」
「ありゃ、そでしたか」
「ええ。とても好みのタイプだったし」
……おっと?
この目は知ってるぞ。
セクハラしてくる時のレンジュさんと同じ目だわ。
「えーと。シルビアさんって、女性ですよね?」
「そうよ。ついでに、女性……というより、女の子が好きよ」
「……あの、私、十五歳ですからね?」
「大丈夫。いけるわ」
「よしわかった、それ以上近づくな」
瞬時に立ち上がり、拳銃を抜き放つ。
手ぇワキワキさせんな。
あと、その目、マジで止めて。
「……ロウディさん?」
「すみません。ですが、仕事は出来るんですよ」
「てかこの人が孤児院の副院長ってヤバくないですか?」
「現状、実害はありません。たまに子ども達が遊んでいる姿を見て鼻血を出しているくらいです」
「それアウトじゃないですかね」
本物だ。かなりガチめな人だ、シルビアさん。
てか、そのジャンルに私を入れないでほしいんだけど。
やめて、息を荒らげながらこっちを凝視しないで。
「ああ……実物のオウカちゃん、なんて尊い……」
「え、これ、ほんとに実害無いんですか?」
「一応は。犯罪歴などは御座いません」
まじか。いやまー、それならいいんだけど……
「……おっけーです。何かあったら問答無用で風穴あけますけど、良いですか?」
「あぁ!! ありがとうございますぅ!!」
「……え、なんでお礼言われたんですか、私」
やだこの人、訳わかんない。
なんかもう本能的に怖いんだけど。
「……シルビア。仕事の話をしますよ」
「分かったわ。オウカ食堂フリドール支店の件ね。
店舗が完成したからその見取り図と、こっちが従業員のリスト。
後は契約条件を纏めた書類ね。確認してちょうだい」
「……すみません、ちょっと待ってください。頭が追い付きません」
落差が凄い。なんなんだこの人。
ちょっと慣れるまで時間がかかりそうだわ……
まーとりあえず、拳銃戻すか。
「……おっけーです。見せてください」
「はいどうぞ」
「どうも……あれ、店員みんな子どもですか、これ」
「そちらの要望通り、孤児院から揃えたわ。みんなやる気はあるし、優秀な子が揃ってるわよ」
凄いな。この短期間でよくこれだけ人数集めたわね。
「なる。ありがとうございます。料理の方はどうですか?」
「もう店に出せるレベルね。後は食材が届くのを待って実践って所かしら」
「あ、その件なんですけど。近いうちに取り掛かるっぽいですね」
「あら、そうなの。随分早いのね」
「まだ話に聞いただけで、確認してないんですけどねー」
イグニスさん、やる気満々だったもんなー。
もう作業開始してるんじゃないだろうか。
あの丸っこいヤツらが海の中で動いてるって考えると、なんか和むわ。
「こちらとしては準備が整ってるから、後は列車待ち。で、その間の給金の相談なんだけど」
「あ、そこは出しますよ。あと食材置いていくんで練習させてあげてください」
「……あら。ありがたいけど、いいの?」
「もちろん。待ってもらってるのはこっちの都合なんで。練習期間も仕事の内ですし」
私も町のパン屋さんで働き始めた頃、ロクに仕事できないのにお給金貰ってたからなー。
学校の先生曰く、先行投資というらしい。
その人の未来をより良くして、自分にも利益が帰ってくるようにする、とかなんとか。
……たぶん、パン屋さんの旦那さんはそんな事考えてなかったと思うけど。
雇ってもらったこと自体、完璧に善意だもんね。
「分かりました。ではその方向で。ところで……」
「なんです?」
「ちょっとハスハスさせてもらってもいい」
「ぶち抜きますよ?」
思わず拳銃を突き付けた。
「あぁ……!! ありがとうございますぅ!!」
「ロウディさん。この人、ドMですか?」
「残念ながらロリコンのマゾヒストですね。それさえ無ければ優秀なのですが……」
深いため息を吐かれた。
うん、なんてーか。この人も苦労してそうだなー。
「これだけ理想の女の子に出会えたんですもの……少しくらいは仕方ないでしょ?」
「……あ、そだ。こちらにまとめ役として使い魔を送ることになりました。予定通りなら白猫になるかと思います」
「ああ……しかも放置プレイまでっ!?」
何しても喜ぶとか無敵か。
「てなわけでロウディさん、後はお願いします」
「はい。後はこちらで詰めておきますので」
「よろしくお願いします。んじゃ、さっさと帰りますね。ちょっと尋常じゃなく怖いんで」
「お疲れ様でした」
「ではでは!」
なんか身悶えしてるシルビアさんには触れず、一切余所見をせずに冒険者ギルドを後にした。
なんか、凄い人だったな、うん。
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