第167話


 なんかめっちゃ疲れたけど、何とか冒険者ギルドに戻ってきた。

 陛下を王城まで送った事をリーザさんに報告して、依頼書の束を確認する。


 常駐の採取依頼や討伐依頼以外だと……お。なんか新しいのある。

 けどこれ、ちょっと変わってんな。

 討伐対象の生息地が王都ユークリアじゃなくてアスーラになってる。


「リーザさん、これアスーラってなってますけど」

「ああ、向こうから回ってきたやつですね。大黒蟹の群れが港の近くに巣を作ったらしいですよ。

 急ぎじゃないみたいですけど、今アスーラで対応できる冒険者がいないみたいですね」


 おー。大黒蟹って、あの高級食材か。

 ふむ。なるほどなるほど。


「へー。あ、でもこれパーティ限定なんですね」

「まあ普通は単体でも個人で討伐出来る魔物じゃないですからね」

「んー。でも、カニ……食べたいなー」


 特に大黒蟹は高価な分美味しいし。

 焼いてよし、茹でてよし。

 でっかいのに程よく身が引き締まっていて、旨みも凝縮されているのだ。

 それに、群れでいるならお土産にも出来そうだしなー。


「んー……ちょっと、行ってきていいですか?」

「ダメですからね。パーティ限定依頼をソロで受注しないように」

「えー。でも多分大丈夫ですよ?」

「それでもダメです。最低三人からのパーティでしか認められません」

「んーにゅ……じゃあ人が揃ってればいいんですね?」

「ええまあ、人数が足りてるなら大丈夫ですけど……」



 ならまあ。今回も頼らせて貰おうかな。




「てなわけで。カニ食べたいので手伝ってください」


「…カニ、美味しいよね」

「私は、焼きガニが好きだ、な」

「せやなー。焼きガニ、ええなー」

「大黒蟹ですか…実家で食べた以来ですね」


 王城。広間にて。


「…カニは焼いても茹でても美味い」

「そうだ、ね。今回は、たくさん居るみたいだ、し。食べ放題だ、ね」

「…オウカさんに作ってもらおうか」

「あ、いいですね。頼めますか?」

「はいはーい。幾らでも料理しますよー」


 一人じゃダメだと言うので、手の空いてる知り合いを集めてみた結果。

 なんか、もの凄いメンバーになってしまった。



 無表情ながらもどこかワクワクしてる勇者。

 それを見て楽しげに笑う剣士。 

 控えめながらもやる気に満ち溢れた魔法使い。

 朗らかに微笑む英雄の弟子。

 ついでに、町娘の私。


 なんだろう。魔王退治にでも行けそうなメンツだなこれ。



 みんなを連れてぞろぞろと冒険者ギルドへ。


「リーザさん、人数揃ったんで行ってきますね」

「……えーと。やりすぎないでくださいね」

「善処します。出来る限りで」


 せめて地形が変わらない程度には加減してもらおう。

 食べる部分が無くなったら困るし。




 ところで。この大黒蟹という魔物。

 中々に危険度が高く、群れともなれば熟練の冒険者が十人くらいでパーティを組んで討伐する対象だったりする。

 岩を軽々と砕く程の力、戦斧の一撃を受けきる甲羅、ハサミだけで私の身の丈を超えるほどの巨躯。

 それらを兼ね揃えた大黒蟹は、龍ほどではないものの、かなりの強敵として知られている。


 その分討伐報酬は高くて、素材の買取も合わせると一財産になるらしい。

 一昔前は一攫千金を夢見て一人で挑み、返り討ちに会う人達が続出したんだとか。

 その為、今回もパーティ限定の依頼になったようだ。


 ……うん。まあ、そんな感じらしいね、普通は。



「…十匹か。一人二匹だね」

「これならすぐ終わりそうやなー」

「手早く終わらせよう、か。今夜はカニ祭だ、ね」

「このサイズの魔物と戦うのは久しぶりです。加減出来るでしょうか……」


 うん。まあ、なんて言うか。

 改めて。戦力過多すぎると思う。


「んじゃ、やりましょかー。リング、頼んだ」

「――Sakura-Drive Ready.」


「Ignition」



 海辺の景色に桜色を撒き散らしながら。

 周辺地域に害を成す魔物改め、高級食材の確保が始まった。




「はーい。カニの塩茹でとカニグラタンの追加でーす。甲羅酒もできましたよー」


「…カニ、美味い」

「司君、こっちも美味しいですよ」

「やっぱ新鮮なのが一番美味いなー」

「おや、カエデさん。それ、何皿目ですか?」

「まだ十皿くらいか、な」

「アレイさん、私も手伝ったんですよ」

「ん? おお、偉いな。美味いぞ」

「しかし、このサイズのカニって未だに慣れませんね……まぁ、美味しいですけれど」

「このサイズで群れて、普段何を食べてるのか興味深いよねー」

「いやぁ今日もお酒が美味しいねっ!! あ、カニ味噌追加でっ!!」

「あら、このコロッケ美味しい。オウカちゃん、流石ねー」


 うん。みんなで好き勝手喋ると訳わかんないわ。


 折角だからとアスーラからの帰り道にマコトさんとハルカさんを捕まえて、十英雄ぷらす一名様をご案内。


 いやー。よく食べるわ。

 これで何人分作ったんだろ。

 まーこんだけ料理してもまだまだあるし……次は何作るかなー。

 余った分は貰えるらしいし、色々研究出来そうだわ。


「…そう言えば。王様は来ないの?」

「まだファルスさんとの話し合いが終わらないらしいですね。非常に残念そうでした」

「ん? お二人の分は別で作ってありますよ?」

「…あ、そうなんだ。良かった」


 いやまー、またギルドに単独で来られても困るし。

 今日も護衛の人達にめっちゃ感謝されたもんなー…


「という訳で……おかわりいる人、手ー上げて」


 予想通り、全員だった。

 よし。次はバター焼きでもやってみるか。

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