第164話


 王城。いつものように顔パス、とは行かず。

 騎士団の人に事情を話し、謁見許可の確認をしてもらっている。

 どれだけフレンドリーでも、相手は国王陛下だからね。

 そう簡単に会える相手ではないのだ。



 普通なら。



「おお、オウカ。先日ぶりじゃのう」



 ほがらかに、人好きする笑顔でこちらに歩いてくる。

 ユークリア・ミルドセイヴァン国王陛下。


 まじでか。陛下直々に来ちゃったよ。



「お久しぶりです。依頼の報告に来ました」

「そうかそうか。どれ、茶でも飲みながらゆっくり聞こうかの」

「…陛下?まさかとは思いますが、私に会う口実に依頼出しました?」

「はてさて。なんの事やら。ジジイには分からんのう」



 やっぱり確信犯か。

 この人、私とお茶したいが為に指名依頼したな?

 普通に呼んでもはぐらかされると読んだ上で。

 大正解だよ、ちくしょう。



 何故か陛下直々にいつもの客室まで案内してもらい、向かい合う形でソファに座った。

 メイドさん達が慌ただしくお茶の準備をしてくれたのを見て、少し申し訳なくなる。

 いや、私は悪くないんだけど…なんとなく、居心地がね。



「ほんと勘弁してください…心臓に悪いです」

「じゃあもっと気楽に遊びに来んか。暇で仕方ないわ」

「アレイさん達じゃダメなんですか?」

「あれはあれで楽しいんじゃがの。ワシはオウカとも話したいんじゃよ」

「光栄ですけど……楽しいですか?」

「おう。オウカは良い子じゃからのう。話していて気分が良くなる」


 ぐぬう。やっぱり凄い人たらしだな、この方。

 そう言われたら断れないじゃん。


「……たまに。遊びに来ても良いですか?」

「おう、大歓迎じゃよ。アレじゃ、ワシはマカロンが食べたいのう」


 お。なるほど。マカロン好きだったのか。


「んじゃ沢山作って来ますね」

「ほほ。ありがたいのう。それで、どうじゃった?」

「今度族長のファルスさんが直接来るらしいです」

「ほお。あの頑固者がのう。オウカは凄いのう」


 ……うん?

 ちょっと待て。今の言い方だと。


「陛下? もしかして、お知り合いですか?」

「おや、言っておらんかったかの。古くからの仲間じゃよ」


 にゃろう。やられたわ。だから私一人で行かせたのか。

 最初から問題ないって分かってたから。


「……私が行った意味って、あったんですかね」

「いやいや。オウカが行ったからアヤツも重い腰を上げたのじゃろうて」

「……ついでに、あの森の食料に関する問題も。私ならどうにか出来るって思って、知ってて黙ってましたよね?」

「おお、そんな所まで気を回してくれたのか。ありがたいことじゃの」


 くっそう。全部計算済みか。

 ぐぬぬ。さすが、一人で数多の国を統一させただけあるわ。

 なんつーか……ちょっと悔しいけど。でもこの方なら仕方ないかなー。


「あ、そう言えば。ファルスさんに嫁に来いって言われたんですけど」

「ほう。懲りん奴じゃのう」

「ん? と言うと?」

「昔のう。アヤツ、レンジュにも求婚しおってのう」


 うわぁ。昔って、それ。


「テンション低い頃のレンジュさんにですか?」

「そうじゃの。で、バッサリ断られたんじゃが、その時の断り文句が凄くての」



『アタシより弱いやつに興味はない。腕を磨いて出直して』



「……えぇ。世界最強がそれ言っちゃいます?」

「実質誰も叶えられんかったからの。例外を除いてじゃが」

「例外ですか?」

「実戦では無いが、レンジュを倒した者が二人おる」


 え、まじか。あのレンジュさん相手に?


「……化け物ですか、その人たち」

「一人目はアレイじゃの。武闘大会でレンジュに勝ちおった」

「あ、それ聞いた事あります。本当に勝ったんですねー」

「うむ。そして二人目はオウカじゃな」

「……は? 私ですか?」

「今のところ二勝しとるじゃろ?」


 あ。空から落ちた時と、こないだのハグのやつか。


「……まあ、あれを勝ちって言って良いなら、そですね」

「ちなみにレンジュは恋愛に性別の垣根なぞ関係ないと豪語しとるからの」

「……。えっと。あの人、どこまでマジなんですか?」

「さぁてのう。案外全て本気かもしれんぞ?」


 そんな怖いこと言わないで欲しい。


「うーん。ちょっと距離感考えた方が良いのかなー」

「まあワシとしてはどちらでも良いがの。カノンも法律を変えようとしとるし」

「……それもマジなんですね」


 同性間、兄妹間の結婚に多夫多妻制だっけか。

 カノンさんもアレイさん絡むとブレーキぶっ壊れてるからなー。


「うむ。愛の形は人それぞれじゃ。好きにやらせようと思っとる」

「そうですか……あーとにかく、依頼については完了って事で良いですか?」

「うむ。ご苦労じゃったの。冒険者ギルドで報酬を受け取っておくれ」

「分かりました。じゃあ私はレンジュさん来る前に逃げますね」



「だーれーかーらっ!! 逃げるのかなっ!?」


 むぎゅっと。背後からハグされた。

 いやだから、苦しいんだってば。


「……遅かったか。とりあえずハグするの、やめません?」

「それは無理な話だねっ!!」


 てか王城に来たら高確率で遭遇するんだけど……どうなってんだ?


「おお、レンジュ。仕事は終わったのかの?」

「ぜーんぜんっ!!」

「おやおや。あまりジオス副団長を困らせんようにの」

「大丈夫!! 最低限の仕事だけはしてるからっ!!」

「いや大丈夫じゃないでしょそれ」


 ジオスさん、いつもお疲れ様です。

 あの人いないと騎士団成り立たないだろうなー。

 騎士団長がこんな感じだし。

 いつもロクに仕事してないっぽいもんな。


「……あ、そだ。興味本位で聞くんですけど」

「何かなっ!?」

「レンジュさんって私の事、どのくらい好きなんですか?」

「もちろん一番好きだよっ!!」

「結婚したいくらい?」

「それは法律が変わってからかなっ!!」


 ふむ。なるほど?


「じゃあ、私が嫌がることはしませんよね?」

「……。さって!! 仕事してこようかなっ!! またねっ!!」

「あ。逃げた」


 騎士団長は音を置き去りにする速度で去っていった。

 ……ふむ。この手は使えそうだな。


「ほお……やりおるのう。やはりオウカ、王位を継がんか?」

「勘弁してください。またマカロン持ってきますんで」

「とりあえず、それで手を打とうかの」


 にんまりと笑う、国王陛下。

 ほんと、人たらしだな、この方。


 むう。今度来る時は特製マカロン持ってこよう。

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