第145話


 朝。目を覚ますと。

 レンジュさんが横で寝ていた。



 ……ふむ。



 確かに鍵をかけた覚えはない。

 けれど、着衣の乱れ、無し。

 ベッドも特に問題なし。



 以上の事から。

 私は無事だったようなので。




 とりあえず。ベッドから蹴り落とした。




「で。なんで居るんですか」

「いやぁっ!! オウカちゃんの寝顔を見たくてねっ!!」

「……私、昨日そんなに変でした?」


 うーん。バレてないと思ったんだけど。


「んーにゃっ!! 見た目は普通だったよっ!!」

「勘ですか」

「勘だねっ!!」


 白い少女について、私が悩んでるのはお見通しだったらしい。

 この人、こういう所あるから嫌いになれないんだよなー。


「……朝ごはん食べます?」

「和食を希望してみたりっ!!」

「はいはい。焼き魚にお味噌汁でいいですか?」

「オウカちゃん愛してるっ!!」

「わ、ちょ、こら!! セクハラ禁止!!」

「朝イチのオウカちゃんもまた良きかに゛ゃっ!?」


 身の危険を感じたので、枕で撃退しておいた。




 どうしても外せない仕事があるとかで、レンジュさんは朝ごはんを食べたら帰って行った。

 ちょっとだけ、心が晴れた気がするのは、何なんだろう。

 あの人もなー。セクハラさえ無ければなー。



 試したい事もあったので、とりあえずギルドに向かう。

 今日は特に緊急性が高い依頼もないので、そのまま裏手に回った。

 この時間だとさすがに人がいないね。

 試すには丁度良いか。何気に結構ワクワクしてるし。


 せっかく手に入れたんだし、すぐに使ってみたいじゃん。

 特に、かなり前から欲しかった奴だしさ。


「よし、リング。やろっか」

「――Sakura-Drive Ready.」

「Ignition……続けて、ペルソナ」

「――SoulShift_Model:Persona. Ready?」

「Trigger」



 さて、どうなる……か?



 流れ込んで来る情報に困惑した。

 ……なんだこれ? うーん。なんて言うか……なんだこれ。


 いや、魔力が高まってるのは分かるんだけど……


 なんか、自分の中にもう一人の自分がいるような感じ。

 あー……魔法使った時にカエデさんが性格変わるの、これが原因か。


 ……とりあえず、魔法は使えそうにないな、うん。

 結構期待してたんだけど……まあ、しゃーないか。


「――オウカ」

「ん? どした?」

「――見て頂きたいものがあります」

「お。なになに?」



「――Model:Persona.

 ――Materialize program. Run.」



 リングの謎言語の直後。



 黒髪の。黒い瞳を持った。

 精巧なガラス細工のような女の子が、目の前に現れた。



「は? え、何?」

「――実体化成功です」

「え、その声……リング?」

「――はい。オウカを元にモデリングした形態となります」

「……そのよく分からん物言いは確かにリングだわ」



 頬に触れてみる。

 ぷにっとした。


 髪を撫でる。

 さらっさらだった。


 ついでに、抱き締める。

 温かな体温。鼓動の音。

 生きている。


「は、はは……凄いじゃん。まさか触れるとは思わなかった」

「――『天衣無縫ペルソナ』の魔力をベースに用いた疑似生命です。

 ――プログラムの都合上、まだあまり長くは持ちません」

「ん。上出来だよ相棒。かなり驚いた」


 ぺたぺたと触りまくってみる。

 すっげぇ。普通の女の子にしか見えないわ。


「――次回からアナウンスする際にこのモデルを表示します」

「おー。それいいね。頼んだ……でもさ」

「――何か問題がありましたか?」

「……服は着ような、相棒」

「――報告:忘れていました」




 早朝だったので誰にも見られずに済んだのが幸いだった。

 とりあえずリングには指輪の中に戻ってもらったし、もう一つを試してみるか。

 ある意味本命。期待に胸が膨らむ。

 最強の英雄、その人の加護。音よりも速く駆ける者。



「んじゃ、リング。セツナドライブ」

「――SoulShift_Model:Sethuna-Drive. Ready?」

「Trigger!!」


 流れ込んでくる情報。

 それを瞬時に理解する。


 ……おや?


 試しに走ってみる。何も変わらない。

 跳んでみる。何も変化はない。


 ……あー。なるほど。


 上空に向けて発砲。

 その魔弾は、途中で消えることなく、空の彼方まで飛んで行った。


 加速じゃなくて、摩擦を無くす方か。

 結構期待はずれだな、これ。


 ちょっと憧れてたんだけどなー、『韋駄天セツナドライブ

 こう、レンジュさんみたいにシュパッて走ったりとか。


 んー。まーとりあえず、リングの姿見れたから、いっかなー。

 かなり惜しい気はするけど、仕方ないし。


「ま、とにかく。これからもよろしくね、相棒」

「――よろしくお願いします、マスター」


 ハイタッチしたい気分。

 また今度、出てきた時に改めてハイタッチしよう。




「ところでさ。私を元にした割に、背が小さくないか?」

「――妥当かと思われます」

「いや、もうちょいあるはず」

「――妥当なサイズです」

「……まじかー」

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