第124話


 本日は、魔導列車型ゴーレム君一号……長いから列車でいいや。

 列車の試運転を行うとかで、私も参加する事になっている。

 これさー。ほんとに大丈夫なのかなー。


 いや、列車の方もね、心配ではあるんだけどさ。

 説明されてもよく分かんなかったし。

 ただそっちはイグニスさんが作ったって事で、ある程度信用はしている。


 イグニス・フォレンシアの名前は、多分誰でも知ってる。

 自分で考えて動くゴーレムを最初に作った人。

 ゴーレム作りの天才。その分野でなら英雄マコトさんをも超えると言われている。

 そんな人が自信作と言っていたのだ。

 だから多分、大丈夫。


 問題はさー。




「ワクワクするのう。馬車より早いんじゃろ、これ」


 目の前に座る国王陛下と。




「らしいな。まあ、空より快適だといいんだが」


 その横に座り、タメ口で話しかけてるアレイさんと。




「おい、口に気をつけろ。いくら英雄と言えど、不敬だぞ」 


 私の隣でマジギレ寸前な女性騎士さん。




 ……このメンツで、本当に大丈夫なのかなー。



「……えーと。陛下? 私は別の客室に移らせて頂く訳には」

「なんじゃなんじゃ。そんなにジジイの事キライかの?」

「いえ、そういう訳では無いのですが」

「なーら良いじゃろ。ほれ、まんじゅう食べるかの?」

「あ、頂きます」


 うわ、これうっま。噛んだらもっちもちしてて、中の芋あんも甘すぎないし……


 じゃなくて。私が別の客室に移るのは無理っぽいな。

 絶対楽しんでるもん、陛下。


 うーん。じゃあ、次。


「アレイさんはカノンさん達と一緒じゃなくていいんですか?」

「あーいや。俺もそうしようと思ったんだが……」

「ワシが話し相手が欲しくてな。ちょっとしたワガママを言わせてもろうたんじゃよ」

「……て事でな。王城じゃ気楽に話せる相手がいないんだとさ」

「みぃんなワシを避けるんじゃよ。ジジイ、悲しい」


 それ避けてるんじゃなくて、恐れ多いからとかそんな理由だと思います。

 うーん。こっちもダメか…かと言ってなー。

 ちら、と横を見る。

 相変わらず眉間に皺を寄せ、アレイさんを睨みつけている女性騎士さん。

 この人に移動して欲しいって頼むのは……無理だろうなー。


「あ、そう言えば自己紹介まだでしたね。オウカっていいます」

「これは失礼致しました。私はリリィ、王国騎士団第一師団長を勤めています。お見知り置きを」

「よろしくお願いしますー」


 にこりと微笑んでくれた。

 わお。笑うと凄い美人さんじゃん。

 仲良くなりたいなー。


「で、陛下。実際の目的は何だ?」

「いやな。可愛い女の子ともう少し仲良くなりたいなと」

「……その心は?」

「アレイの嫁になってくれんかなーと」


 まんじゅう吹き出すかと思った。


「え……は? 私とアレイさんがですか?」

「アレイにはいい加減結婚して王位を継いでもらわんと、ワシが隠居できんでの」

「おいこら。いくら何でもオウカちゃんは無いだろ」


 おいこら。どういう意味だ。

 あれか? 身長的な意味でか?


「待とうか。ケンカ売ってんなら買いますよ」

「いやいや、年齢差がな。他意はないぞ」

「陛下居なかったら抜いてましたよ、拳銃」

「……なあ、最近沸点低くないか?」

「……自覚はあります」


 だってもう、育たないの確定だし。


 てか、え? アレイさん、王位継承権持ってんの?

 さすがに初耳なんだけど…


「と言うか、陛下はまだまだ現役だろ」

「嫌じゃよ。もう働きとうない」

「知った事か。大体俺が王族になってみろ。即クーデターが起こるぞ」


 苦笑いするアレイさんに、リリィさんが腰の剣に手を当てながら立ち上がった。


「貴様ぁ!! 陛下に向かってその口の効き方はなんだ!!」

「あー、ええんじゃよ。アレイは特別じゃから」

「陛下!? しかし……!!」

「……いやな、俺が敬語で話すと嫌がるんだよ、この人」

「だって他人行儀じゃもん。将来の息子に敬語使われるのは、ジジイ嫌じゃよ」

「だから王位は継がんと何度言えば……」


 なるほど。王位継承権の話は陛下の希望ってだけなのね。

 それを断るアレイさんも凄いけど。

 ついでに、リリィさんの表情も凄いことなってるけど。


「陛下。とりあえず、私がアレイさんと結婚することはありません。

 私も命は惜しいですし」

「……ああ、なんか、うん。妹がすまんな」

「いえ…あれさえ無ければなーと思いはしますけど」


 カノンさん、アレイさん絡むとブレーキぶっ壊れるからなー。

 そもそも結婚とか興味ないんだけど。


「ふむ。じゃあオウカ、次期女王にならんか?」

「はい?」


 今度は何言い出すんだこの方。


「オウカもアレイと同じで皆に好かれておるからのう。丁度よかろ?」

「いや、そんな今日のおやつを選ぶ感覚で言われても困りますって」

「何ならワシの養女になるか?」


 ……それって、王様の娘になるってこと?

 それ自体は凄く光栄なことだけど……うーん。


「あー、すみません。それは深くお断りします」

「おや? 何故じゃ?」

「私の親は、一人だけですので」


 まあ、シスター・ナリアが結婚したらお父さんできるかもしんないけど。

 あの人多分、その気はないからなー。


「ほうほう……こりゃあすまんかったの。許しておくれ」

「いえ、こちらこそ、すみません」

「ほんに良い子じゃのう。マジで女王にならんか?」

「勘弁してください」


 まんじゅう渡す時と同じノリで王位継承権渡そうとしないでほしい。

 こちとらただの町娘なんだけど。


 ……あーいや。元を言えば陛下もそうか。

 確か昔はただの農民だったらしいし。

 良かったらその辺、詳しく聞いてみたいなー。


「陛下。もし良ければなんですけど、昔のお話とかお聞かせ頂けませんか?」

「なんじゃ、ジジイの昔話を聞いてくれるのかの?」

「ぜひ聞きたいです。建国王の昔話」

「そうかそうか。じゃあちょいと聞いてくれ。あれはワシがまだ若かった頃じゃな……」

「ふむふむ」


 それからしばらく、陛下の昔話を聞かせてもらった。

 ……改めて、すごい人だな、この方。

 その身一つで国を統一させるとか、尋常じゃないよね。


 こうやって話してると、普通の気のいいおじいちゃんなんだけどなー。

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