第50話


 王城から帰ってすぐ、冒険者ギルドに顔を出し。

 待っててくれたリーザさんに泣き付いた。


「リーザさーん! 騎士団長にセクハラされたー!」

「よしよし……あの人はねぇ。私もよく狙われるのよ」


 抱きしめて頭を撫ででくれた。

 おお。ふかってして、むにゅってなった。

 撫でる手つきも優しくて落ち着く。


「なんかあれなんだよね。あんまり嫌じゃないのが怖いって言うかさー」

「わかるわぁ……」

「しかも実力で排除できないからすっごい困る」

「一応、最強の英雄ですからねぇ」


 二人してため息をつく。ほんと質悪いわ、あの人。

 何かね、嫌われようとしてわざとやってる感じがあるし。

 悪い人じゃないのは、周りの人の反応見てたらなんとなーく分かるんだけどねー。

 でも、本気かもしれないと思うと、ちょっと怖い。



 しばらくリーザさんとお喋りして、お昼時になったのでストレス発散を兼ねてお昼ご飯を作って帰った。

 ふふふ。顔より大きい特大サンドイッチ四十人前なんて生まれて初めて作ったわ。

 中の具は鶏肉とジャイアントシュリンプのバジルソース炒め。

 昼は交代制らしいけど、まーあんだけありゃ足りるでしょ。

 ひたすら具材を炒めてパンを切る作業は中々楽しかった。



 自分の分の特大サンドイッチを食べ終え、ギルドの裏庭に向かう。

 カエデさんと話して思い出したことを試したい。


 いや、すっかり忘れてたけど、シマウチハヤトさんの偽物も銀色のカード落としてたのよね。あれ使えば私も剣が使えるんじゃないだろうか。

 という事で、やってみよう。



「リング、ソウルシフト。シマウチハヤトさんで」

「――OK. SoulShift_Model:Durandalデュランダル. Ready?」

「Trigger」


 カードに記された戦闘記録が流れ込んでくる。おお、なるほどなるほど。

 でもこれ……うーむ? まーちょっと、試してみるか。


 魔力を剣の形に構成。木製の的を目掛けて駆け寄り、左から右へ斬り払い。

 そーりゃー!



 ガキン、と音をたてて剣が的に食い込んだ。



 ……あー。うん、やっぱりそうだ。

 剣を魔力に戻して、痺れた手を軽く振る。

 このカード、記録出来てない部分が多すぎる。

 でも多分、記録する側じゃなくて、記録される側の問題だわ、これ。


 シマウチハヤトさんって人、ちょっと普通じゃない。

 経験とか訓練とか無しに、走るとか跳ぶとかと同じ感覚で剣を扱ってるっぽい。

 そこの情報がカードに入ってないから、私も剣を使うことは出来ない。


 いや、ちょっと私には理解できそうにないわ、これ。

 似たような体型ならまだしも、身長差がありすぎて応用もできないし。


 ぬう。レンジュさんもだけど、英雄って加護無しでも異常なくらい強いよね。

 元々の能力値がおかしいって言うか。

 アレイさんくらいなら何となく理解できるんだけどなー。


 とにかくこれ、私が持ってても何の意味もないな。アイテムボックス入れとこ。


 あ。そう言えば。


「リング。私の偽物が落としたカードってさ。ソウルシフトしたらどうなんの?」

「――不明:非推奨行動です」

「え、なんで?」

「――戦闘記録のインストールを行う場合、付随した記憶も同時にインストールされます。

 ――オウカは不要な部分を削除する機構がある為に通常であれば問題ありませんが、同内容をインストールする場合、取捨選択にエラーが発生する可能性があります」


 は? えっと……いんすとーる?


「……ごめん、つまり?」

「――最悪の場合:全記憶を失います」

「なにそれ怖っ!?」

「――対して:想定されるメリットはありません」

「なるほど。そりゃオススメできない訳だわ」


 記憶が無くなる可能性があるのに何も得しないんじゃ、試す意味が無いどころか危険しかないじゃん。

 むう。じゃあ今んとこ、拾ったカードはどっちも意味無いのか。便利だなーとか思ったのになー。

 ……ま、いっか。戦闘も料理も、現状で困ってないし。


「あ、じゃあさ。他の人のカードなら大丈夫なの?」

「――理論上:問題ありません」

「ふむ。カエデさんのカードとかあれば魔法使えんのかな」


 最強の魔法使い。『天衣無縫ペルソナ』と呼ばれる英雄、ミナヅキカエデさん。

 彼女はあらゆる魔法を使えると言われている。


 カエデさんのカードとかあれば私にも魔法が使える可能性がある、気がする。

 そしたら私も、炎出したり空を飛んだりでき……あれ、今とあまり変わらないような気が。

 いやいや、でも、魔法が使えるかどうかが大事なんだし。


 あーでも、本人から専用の魔法しか使えないって言われたなー。

 そこんとこ、どうなんだろ。運良く手に入ったら是非試してみたい。


 さて。あまり長居しても仕方ないし、食材の買い出しにでも行くか。

 ギルド職員さんがチラチラこっち見てっし。

 それに、今日は港町のアスーラからの定期便が来てるはずだし、大通りで珍しいものが並んでるかもしれない。

 あーわてか、久しぶりにプリンとか食べたいなー。

 教会じゃよく作ってたけど、こっち来てから食べてないや。


 ソースだけ先に作っちゃえば大人数分でも一度に作れるし。

 卵とミルク買って。砂糖はめっちゃあるから、夕飯のデザートに作ろっかな。

 夕飯のメニューは……うーん。とりあえず、大通り行って商品見てみるか。

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