第40話


 王都にもどり、その足で冒険者ギルドにやってきた。



「たーだいーまでーす」

「おかえりなさい、どうだった?」

「とりあえず、これお願いします」


 狩ってきたゴブリンの犬歯をどばっと出してみる。

 うわ。結構な量だなー。


「あらまあ、大量ね……ちょっと待っててね」

「あとグラッドさんに話したい事があんだけど、いる?」

「いまは来客中なのよ。あ、でもオウカちゃんならいいかな。部屋にいるから行ってみたらいいわ」

「はーい。ありがとー」


 言われた通り奥の部屋に進む。

 ギルマスの部屋は……ここだっけか。


 コンコンとノックして中に入ると、グラッドさんとカノンさんがいた。

 あ、来客ってカノンさんなんだ。


「なんだお前か。どうした?」

「グラッドさんに相談があって。カノンさん、どもです」

「こんにちは。お元気そうで何よりです」

「……お前が、相談、だと?」



 微笑む美人とおののくヒゲマッチョ。

 ちょい面白い図だな。


「相談って言うか、変な魔物がいたから報告?」

「変? どんな奴だ?」

「んーとね。真っ黒で、私みたいな奴と長髪の男みたいな奴。口だけ赤かった」

「ほう。人の形をしているのか?」

「うん。で、武器を使う。私に似た奴は私と同じ武器だったし、男の方は伸びる剣持ってた」


 その言葉に、カノンさんがピクリと反応した。


「……オウカさん。伸びる剣というのは、刀身が伸び縮みするのですか?」

「あ、ですです。めっちゃ切れ味も良かったですね」

「……なるほど?」


 顎に指を当てて考え込むカノンさん。

 絵になるなー。


 ついでに腕を組んで唸ってるグラッドさん。

 違う意味で絵になるわ。


「あと、両方倒したら黒い塵になって消えちゃいましたね」

「なるほど。魔力生命体ですね。ですが、この特徴は……」

「まあ、一致してるっちゃ、してるよなあ」


 二人で頷き合う。え、何の話?


「お前、英雄のシマウチハヤトは知ってるか?」

「えーと、『変幻自在の魔剣デュランダル』の?」

「ああ、それだ。聞いた感じ、そいつの能力はあいつに似ている」


 英雄の一人、シマウチハヤトの加護『変幻自在の魔剣デュランダル

 姿形を自在に変えられる魔剣を持ってるんだっけか。

 確かに似てるっちゃ似てるかもしんないけど。


「……英雄と何か関係があんの? でも、私っぽいのもいたよ?」

「あの、オウカさん……言いにくいのですが、貴女も条件に該当します」


 ……あ。そうか。人造英雄だっけ、私。


「……なぁおい。何の話か知らんが、それは俺が聞いても大丈夫なやつかそれ?」

「あれ、グラッドさんには言ってないっけ。私、人造英雄ってやつらしいのよ」

「……。いや、お前、それ大事じゃねえか?」

「あんまり知られちゃいけないらしいから、そこんとこよろしく」

「軽く流してんじゃねえよ……頭いてぇ。とりあえず詳しく聞かせろ」


 詳しくって言われても……私自身あまり理解してないんだけどなー。


「えーと。なんか昔作られた、対魔王用兵器? とかなんとか」

「えらくふわっとしてるな。お前の事じゃないのか?」

「詳しくはアレイさんに聞いてほしい。私もよく分かってないし」

「そうか。まあ隠匿性が高い話ってのは理解したが……頭いてぇわ」


 文字通り頭を抱えて唸りだす。

 ……なんか、ごめんなさい。


「ひとまず、オウカさんもお兄様に相談してみては如何ですか?」

「え。うーん。どうしようかな」

「おや、何か問題でも?」


 ちょっとね。躊躇ためらう理由があってですね。


「……や、大丈夫です。今から行って大丈夫ですか?」

「はい、こちらも用が終わったら向かいますので、先に行かれてください」

「はい。じゃあまた後で」


 王城かぁ。

 嫌な予感がばりばりっとしてるんだけど。

 大丈夫、だよね?




「オウカちゃんだっ!! やっほー!!」

「ひゃああああああああ!!」


 やっぱり出たああああああああ!!


「や、とりあえず今はセクハラしないから落ち着いてほしいなっ!!」


 晴れ晴れとした笑顔で叫ぶ、セクハラ魔人レンジュさん

 全く信用できないんだけど。とりあえず手ぇワキワキさせるのやめろ。


「……変なことしたら風穴開けますからね」

「大丈夫だよっ!! 今日はどうしたのかなっ!?」

「や、ちょっとアレイさんに相談があってですね」

「アレイなら部屋にいると思うから呼んできてあげよっかっ!?」

「あ、じゃあお願いします」

「任せたまえっ!! じゃ、こないだの部屋で待っててねっ!!」


 言うが早いか、一度、とんっと地を蹴り、ぱしゅんと音を残して消え去った。

 部屋に迎えに行ったんだろうか。さすが最速の英雄だなー。色々と普通じゃないわ。



「おう、今日はどうしたんだ?」

「……いや、その人どうしたんですか?」

「まあ、察してくれ」

「やっ!! さっきぶりっ!!」


 無精髭のアレイさんと、こないだのように後ろ襟を掴まれてぶらーんてなってるレンジュさん。

 この二人の関係性も何となく分かった気がする。


「ええと、ちょっと相談がありまして」

「相談? なんだ?」

「ゲルニカの古代遺跡で、黒い私と戦闘しました。それに今日、王城の近くで似たような黒い奴と戦いました」


 穏やかだった表情が、引き締められた。

 鋭い眼光。この人もやっぱり、英雄なんだな。


「……ほう。それで?」

「どちらも倒すと黒い塵になって消えちゃいました。

 それと、今日見たやつは剣を伸ばして襲ってきました」

「剣を、伸ばす……なるほどな」

「グラッドさんは英雄シマウチハヤトの加護に似てるって言ってましたね」

「ああ、確かに似ている。が、問題はそこじゃないな」


 がりがりと頭をかくアレイさん。

 問題はそこじゃない?


「オウカちゃんとハヤトを真似た魔物が出たんなら、他の英雄の真似をした奴が出る可能性があるだろ」

「あ。確かに」

「ツカサやらレンジュやらが出たら冗談じゃない」


 魔王を殴り飛ばした『天魔滅殺ラグナロク』のトオノツカサさんと、世界最速の『韋駄天セツナドライブ』のレンジュさん。

 どちらも最強と呼ばれる英雄。その、偽物。

 確かに、冗談ではない。


「今のところ発見報告は上がってないが……警戒するようにカノンから通達を出してもらうか」

「はい、お願いします」

「そっちも気をつけてくれ。無理はするなよ」


 何処と無く、優しさを感じる表情。こちらを心配してくれているのがよく分かる。


「大丈夫です。ヤバかったら飛んで逃げます」

「ああ、それがいい。全ては生きていてこそだからな」


 にこりと笑うアレイさんは、少しだけ少年のように見えた。

 この人、こんな顔で笑うのか。ちょっと意外だ。



「難しい話は終わったのかなっ!? そろそろオウカちゃんと戯れたいんだけどもっ!!」

「ああ、お前はこのまま騎士団に連行だ」

「なんでさっ!? この裏切り者ぉっ!!」


 じたばた。襟首を掴まれたまま、駄々をこねるように暴れている。


「たまには真面目に仕事しろ。じゃあな、オウカちゃん」

「またこんどハスハスさせてねえええええっ!!」

「よくわかりませんがお断りします」


 今日一番の笑顔で手を振り見送った。

 相変わらず、騒がしい人だな、レンジュさん。

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