第30話


「俺も前騎士団長……オーエンさんから聞いただけなんだが、君は『対魔王用人造英雄』の試作機、らしい」

「……。はあ。え、人造?」

「対魔王用人造英雄。人の手で作り出された英雄だな。オーエンさんは十五年前、ゲルニカの古代遺跡で君を見つけて保護したんだとか。

 その後、知り合いの教会に預けたと聞いている」

「……はあ。なるほど」

「俺の加護は魔王の魔力を吸収してるからな。それで誤作動したんだろう」

「……あの、すみません。真面目な話をして頂いている中、悪いんですけど」

「なんだ?」

「……これ、何とかなりませんか?」



 さっきからずっと、後ろから私を抱き締めてサワサワしてくるコダマレンジュさんを指差す。

 ちなみにカツラギアレイさんはカノンさんに目隠しされた状態なので、指差しても見えないのは分かっている。

 分かってはいるが、ちょっと手つきが怖いので止めてほしい。


「すまん、俺にはどうする事もできん」

「一応、暴れだした時に対処しやすいように、と大義名分がありますものね」

「黒髪ロングのロリっ娘まじ天使すぎるんだけどっ!!」


 いえ、あの、私ロリじゃないんで。十五歳です。

 て言うか、身長的に私と貴女で対して差は無いですよね?


「……えーと。とりあえず、私はその人造英雄、とやらなんですね」

「ああ。対魔王用人造英雄Type-0【killing Abyss】

 それが君の種族名だ」

「ながっ!?」


 は、え? なに、きりんぐ?


「まあ別に覚えなくてもいいと思うがな。君の指輪が覚えてくれるだろ」

「あ、リングの事も知ってるんですね」

「リングか、いい名だ。そいつも君と同じ場所に保管されていたらしい。あと、拳銃型デバイスも」

「なるほど……レンジュさんストップ、そこから下はおさわり禁止です」


 そこはダメ。乙女的に完全アウトだから。


「あ、分かったっ!! タイプ0で頭文字がKAだから0KAオウカちゃんなんだねっ!!」

「……え? いやいやまさかそんな」

「ああ、オーエンさんはそう言ってたな」

「……あの、ちょっと前騎士団長の代わりに殴られてくれませんか?」


 知りたくなかった。そんな名付け理由。


「おいおい、俺の虚弱さをなめるなよ? ゴブリン相手に死にかける男だからな」


 いや、堂々と何言ってんだこの人。てか、本当に英雄なんだろうか。

 なんか、町の自警団の方がまだ強い気がする。


「まあ、お兄様は加護の有無で戦力差が激しいですからね」

「へー。ちなみに加護有りだと?」

「昨日、ドラゴンを十匹以上墜としてましたね」

「正確には十七匹でアタシより撃墜数多いからねっ」


 ドラゴン十七匹っ!? ドラゴンって、あのドラゴンだよね!?


「立派なドラゴンスレイヤーじゃないですか!?」

「いや、凄いのは加護であって俺じゃないからな? そこを勘違いしないでくれ。

 俺はただの一般人だ」


 あ。なんか親近感が。

 いやでも、ドラゴン倒しといて一般人は無理がないか?


「まだそんな事を……」

「アレイはいつもそうだねっ!!」

「いや、お前らと一緒にされたら俺の身が持たんからな。俺はいつでも命懸けだ」


 カノンさんとレンジュさんに呆れられ……レンジュさんは呆れてんのか、これ。

 まあなんか、ツッコミ入れられてる。


「ん……てかレンジュさん、そろそろ手ぇ、止めましょうか。まじで、ちょ、こらっ!!」

「おいカノン、いま非常にアレな事になってないか?」

「大丈夫です。ギリギリですが」

「だめだって、レンジュさ……やめろっつってんでしょうがぁ!!」



 発砲。



「うわこっわ撃たれたよいまっ!?」

「避けられるとは思いませんでした。ちっ」

「わお、ダーティなロリっ娘も悪くないねっ!!」

「おいカノン。とりあえずそいつら止めろ」

「なに、カノンちゃんも交ざるのっ!? よっしゃばっちこいやぁ!!」

「え、ちょ、やめ……」




 しばらくおまちください。




 おー。後ろ襟ぶらーんされるとこんな感じになんのね。

 人がされてるとこ、初めて見たわ。


「改めて。他に何か聞きたいことはあるか?」

「ぜぇ、ぜぇ……いえ、今のところは」

「はぁ……まあ、お兄様にはしばらく王城にいてもらうので、何かあったらいらしてください」

「ありがとうございます……でも、レンジュさんもいるんですよね?」


 この人居るならちょっと気が引けるかな。


「……大丈夫です。後でお仕置きしておきますので」

「まじでひゃっほうばっちこいっ!!」

「アレイさん、もうちょっと上げてもらっていいですか。風穴開けてやります」


  ホルダーから拳銃を抜き放つ。


「ごめんなさいでしたっ!!」

「……次したら怒りますからね」

「はぁいっ!!」


 んむう。レンジュさん、悪い人では無いと思うんだけど……ちょい危険かもしんない。乙女的に。


「あ、そだ。アレイさん、さっきの古代遺跡って、場所わかりますか?」

「ああ、一度行ったことがある。旧魔王城のすぐ近くだ」

「なるほど。旧魔王城辺りなんですか」


 んーむ。行ってみたい、けど、遠いなあ……

 いやまあ、空から行けば半日かからないとは思うけど。

 まあ、少し考えてみよっかな。


「じゃあ、私はそろそろ行きます」

「ああ。最後に、あまり周りに口外しないようにな。特にお偉いさん方はまずい。

 最悪、君に賞金がかけられる事になる」

「……はい。ありがとうございました。ではまたー」


 大きく手を振って、部屋を後にした。




 宿に帰還後、すぐにベッドに潜り込んだ。


「――オウカ。大丈夫ですか?」

「…ん、ちょっとね。思ってたより、しんどいかな」


 両腕で顔を隠した。


「――オウカ」

「私、人間じゃないんだってさ。普通じゃないとは思ってたけど、作り物なんだって。あはは。リングと同じだね」


 笑う。でも、喉が震えてきた。


「――」

「……ごめん、明日には大丈夫になるから」


 でも、今は、無理だ。


「――オウカ。ここには今、私しかいません。我慢することはないです」

「……ありがと」



 翌朝、目がめっちゃ腫れてたので、宿を出るまでしばらく時間が必要だった。

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