第12話


 お昼ご飯はサンドイッチだった。

 ベーコンと葉野菜がたくさん入った奴だ。

 カリッカリに炒めたベーコンと葉野菜のシャキシャキ感がいい感じにはまっていて、さらにマスタードが効いててとても美味しかった。

 美味しいご飯は正義。私の中の絶対基準である。

 ここの宿を勧めてくれたリーザさんに改めて感謝だ。


 しかし、ギルドに出向くと、間が悪いことにリーザさんは居なかった。

 美味しいご飯のお礼を言おうと思ってたのに。

 とはいえ、いないものは仕方ないので、依頼書の束を手に取る。

 昨日は採取依頼しか見てなかったけど、討伐の方も見てみっかな。

 手紙の返事が来るまでの滞在費を稼がないといけないし。


 あまり量のない依頼書をパラパラとめくる。

 ゴブリンとかオークに混じってコボルトやワイバーンの討伐依頼があったけど、近場だとゴブリンの常駐依頼しかないようだ。

 とりあえず書いてある分の討伐証明部位を覚えておく。

 ゴブリン退治してる時に、たまたま遭遇するかもしれないし。

 大体が犬歯でワイバーンは鉤爪。これなら手持ちのナイフでどうにか出来ると思う。


 あー。てか、来るとき作ったオーク肉の燻製、全部あげないでとっておけば良かったかなー。

 でもギルドで売れること知らなかったし……喜んでくれたから別にいいか。

 また居たら狩ってみようかな。



「おはよーございまーす」

「おお、おはよう。今日も薬草かい?」

「や、今日は討伐依頼受けてみよーかなーと」

「おいおい、大丈夫か? あまり無理はするなよ?」


 驚いた表情で心配された。んー……なんか、王都って良い人ばっかりだなー。


「あざます。大丈夫ですよー」

「まあ、気をつけてな」

「はーい」


 昨日も会った門番の人と少し雑談してから薬草の森へ。

 薬草は他の人が依頼を受けるかもしれないから、今回はパス。


「リング。魔物の検索お願い」

「――検索:探知範囲内にゴブリンが七匹」

「うわ、多いな……とりあえず、道案内よろしくね」

「――案内:道なりに進んでください」

「はいよ。ありがと」


 拳銃を両手に下げて森の中を進む。

 リングがいるとほんとに便利だ。周りの状況とかも教えてくれるし、自分で探す手間が省ける。

 そもそも、リングがいなければ私は冒険者なんてやれなかっただろう。

 知識も経験も戦闘力も無い町娘が、冒険者なんてやれる訳無いだろうし。

 リングさまさまである。ありがたや。

 まー王都に来たのもリングが原因だけどね。


「――オウカ。ゴブリンまで20メートルです」

「ん、見えた。じゃいつものお願い」

「――Sakura-Drive Ready.」


「Ignition!!」


 森の木々の隙間を縫うように立ち上る、薄紅色の魔力光。

 見慣れてきた光景。けれど、何度見ても不思議な感じがする。

 私に勇気と戦う力をくれる桜色。

 不思議な高揚感に胸が満たされる。

 

 さあ。今日も踊ろう。



 駆ける。距離を詰め、私の射程に入る。

 飛び出して来た私を見て驚く顔、その額に弾丸を撃ち込む。

 脚を止めず、加速、目前の樹を駆け上がり、跳ぶ。

 黒髪をなびかせながら飛び、別の個体を頭上から射撃。枝を蹴って進行方向を変え、更に発砲。

 木々を足場に、縦横無尽に飛び回る。


 着地の衝撃を速度に変え、身を低くしたまま疾走する。

 跳び上がりながら発砲、胸を撃ち抜く。

 目の前に迫った木の枝を撃ち抜き、飛び散った大きめの破片を蹴り弾く。

 振り払って動きを止めたところに弾丸を浴びせた。

 着地、両手を伸ばして左右に発砲して締め。


 合計七匹、討伐完了。

 うん。やっぱり群れでも問題なく狩れる。

 改めて普通じゃないって感じるな、サクラドライブ。


 て言うか今さらだけど、銃の命中率も異常だと思う。

 こんだけ動き回ってるのに狙った所に飛んでいくのは、拳銃の能力なんだろうか。

 撃てば当たるって理解できるから撃ってる引いてるけど……その辺はどうなんだろうか。

 やはり、魔法が使えない件と合わせて、専門家の人に話を聞いてみた方が良いのかもしれない。


 そんな事を考察していると。


「――大型の個体を感知。オーガ一匹。森の奥にいます」 

「……オーガ? 王都の横の森の中に?」


 リングから妙な事を聞かされた。

 オーガ。人型で巨大な一本角の魔物。

 でも確か、王都より遥かに北にあるゲルニカ大陸の方にしかいないんじゃなかったか?


「――武装しています。警戒を」

「リング、やれると思う?」

「――肯定」

「じゃあ、行ってみるか。放っておくのも嫌だからね」



 拳銃を持ったまま、走る。

 オーガはすぐに見つかった。

 聞いてはいたけど、でかい。一0メートルはあるんじゃないだろうか。

 大きな棍棒を手に、こちらを見ている。

 そりゃね。あんだけバンバン撃ってたら、気付くよね。


「さて、踊ろうか。ダンスパートナーとしてはデカすぎるけど」



 速度を上げる。駆け寄り、発砲。

 的が大きくて狙いやすいけど、あまり効いてるように見えない。


 周囲を駆け回り乱射しても、筋肉が太すぎて弾が貫通しない。

 適当に撃ってもダメだな。これ、全然効いてないわ。


 それならばと、足首、膝裏、アキレス腱、脛。

 人型の急所を撃つと、巨体が少し、よろめいた。

 よし。弱点は人間と同じ。なら、やれる。


 手応えを感じたところで、怒り狂ったオーガの巨大な棍棒が降ってくる。さすがに銃底で受け流せるサイズじゃない。

 慌てて前方に加速すると、背後から衝突音。

 揺れる地面に足を取られかけ、すぐに体勢を立て直す。


 かすっただけで即死するな、あれ。気をつけないと。


 次いで降ってくる棍棒を避け、その手を足場にして駆ける上がり、跳ぶ。

 私の頭と同じくらいの大きさの目と、視線が交差した。



 どれだけでかくても、ここは弱点だよね?



 両手で乱射。

 繋がって聞こえる発砲音と、巨人の悲鳴。


 振り回される腕。肩を蹴って待避、頭上を平手が通り過ぎ、風圧で吹き飛ばされた。

 樹に衝突する直前で回転、脚からぶつかり、膝で勢いを殺す。

 重力に引かれて着地する前に樹を蹴って跳び、膝裏に弾丸をまとめて撃ち込んだ。


 膝が折れ、オーガが転ぶ。


 その隙に巨人の背に飛び乗り、後頭部に銃口を押し当てた。

 これならどうだ。



 発砲バン



 一回ビクリと痙攣して、オーガは動きを止めた。

 離れて警戒するも、微動だにしない。


「――生体反応の消失を確認。周囲に敵生生物反応無し」

「……はは。私、すげぇな」


 腰に拳銃を戻す。

 桜が舞い散る中、ぺたりと座り込み、胸に手を当てて深呼吸した。


 鼓動が速い。体が熱い。

 でも、リングの言う通り、何とかなってしまった。


 こんなことオーガ狩り、ただの町娘のやることじゃないよなー、と。

 自分自身に呆れながら、大の字になって寝っ転がった。


 仰ぎ見た木々の隙間からは、青い空が覗いていた。

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