道産子令嬢は雪かき中 〜ヒロインに構っている暇がありません〜

荒瀬ヤヒロ

1、レイシール、思い出す





「レイシール・ホーカイド!貴様との婚約を破棄する!」


 すべての終わりを告げる言葉に、私は崩れ落ちて膝を突いた。

 その言葉を吐いたアルベルトの横には、彼の腕に胸を寄せてすがりつく少女。


 その少女に対して嫌がらせを繰り返し、最終的には破落戸を雇って襲わせたという罪で、私は投獄された。


 そして、外に出されることなく処刑された。


 公爵令嬢レイシール・ホーカイドの末路。




 ……うん。これ、見たことあるわ。




 ***





 あまりの寒さに目が覚めた。


「へっくしょん!」


 さ、寒い。なんでこんなに寒いのに暖房つけないの?

 私は起き上がって腕をこすった。室内なのに息が白い。さっと室内を見渡すが、ストーブらしきものはない。暖炉はある。


「あっ、お嬢様っ!申し訳ありません!お目覚めになられたのですね」


 慌てて入ってきたメイドが籠の中の炭をセットし、火をつける。本来ならば主人が目覚める前にやっておくことだ。



「寒いじゃない!」

「申し訳ございません!」


 私の口から出た金切り声に、自分でびっくりした。

 私、レイシール・ホーカイド。

 レイシール・ホーカイドとして生きた、十年間の記憶がある。


 そして、それとは別に、日本という国で二十数年生きた記憶もある。


 その、日本人として生きていた記憶の中に、「レイシール・ホーカイド」は登場する。ゲームのキャラクターとして。


 ヒロインを操作してイケメンの男の子と恋をする、いわゆる乙女ゲームというものだ。

 レイシール・ホーカイドはゲームのラストで断罪される悪役令嬢。


 さっきの夢の通り……いや、あれは夢じゃない。

 これから現実に起きることだ。私、レイシール・ホーカイドは婚約者のアルベルトに婚約破棄され、投獄され処刑される。

 ゲームの場面が蘇ってきて、私はぶるっと震えた。


「お嬢様、お着替えになられますか?」

「あ……いえ、もう少し部屋が暖まってからにするわ」


 まだ部屋は薄暗いので、メイドを下がらせて部屋に一人になった。


 さて、どういうことだろう。

 日本人として死んだ私がゲームの中に蘇ったということだろうか。十歳のレイシールの体に乗り移ったということ?


 いや、十歳以前のレイシールの記憶もあるのだから、乗り移ったというより生まれ変わったの方が正しいか。


 でも、レイシール・ホーカイドはゲームの中ではヒロインの選択肢に関わらず必ず断罪される悪役令嬢だ。


 このまま生きていたら、ゲームの通りに十六歳で処刑されてしまうのだろうか?


 ううん!前世の記憶があるんだもん、絶対に処刑なんかされない!婚約者のアルベルトにも興味はない!ていうか、あんな男と婚約しなければそれで済む!


「よし!絶対に婚約しない!」


 私は拳を握ってそう決意した。



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