第7話 球拾いの天才⑵






「もしかして、入部希望者?」


 初めての訪問者に野分は色めき立つ。


「これで全員?」


 部室に五人しかいないのを見て取って、訪問者は眉をしかめた。


「入部届にサインを〜」

「やめる」


 いそいそと書類とペンを取り出した野分だったが、相手はあっさり言って踵を返してしまった。


「えぇぇっ、ちょっと待って」


 野分は慌てて引き留めた。背は雷より低いが、体つきはがっしりしている。まっすぐな背筋といい、キビキビシタ動作といい、見たところスポーツ経験者だ。逃す手はない。

 だが、彼は振り返りもせずに素っ気なく言った。


「試合も出来ねえチームに用はねえよ。あと三人揃ったら教えろ」


 ぴしゃんっと音を立てて部室の戸が閉められる。


「な、なんだあの態度……」


 あまりの無礼さに雲居が呟く。


「俺、あいつ知ってるぜ」


 雷がしまった戸を眺めながら言った。


「二年の霰野だ。同じ中学だったんだけどよ。野球部でキャプテンやってたぜ」


 その言葉に雲居が「ええっ?」と声を上げる。


「なんでそんな人材がいると知っていて勧誘しないんですか!?」

「いや、それがよ……」


 雷は食って掛かる雲居から目を逸らしてぽりぽり顎を掻いた。

 いつになく歯切れの悪い態度に眉をひそめていると、やがて雷は言いづらそうに口にした。


「あいつ……本当は大海原に行くはずだったんだよ」

「え?」


 考えてみれば、キャプテンまで務めた男が野球部の無い天木田に進学したのは不自然だ。

 大海原を落ちたとしても、他にいくらでも学校はあるのに。

 どうやら事情を知っているらしい雷がぼそぼそ語る内容に、野分は目を見開いた。


「だけど、受験の前日に体育倉庫に閉じ込められちまってな」

「!」

「発見されたのが受験当日の朝だったんだけど、真冬に一晩放置されてたせいで高熱出してて……まあ、事情が事情だから、特別に後日受験させて貰えるって話もあったみてえだけどよ。

 詳しくは知らねえけど、あいつを閉じ込めたのがどうやら同じ野球部の奴だったらしくて」


 雷の話す内容に野分は息を飲んだ。


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