錯綜

『放射性の被害を軽減するために、コップ一杯の水に、ヨウ素入りのイソジンを混ぜて飲むと良いらしいよ。お試しあれ』


 これは当時の恋人から送られてきた、どこで入手したのかもわからない謎の情報である。被災していない者の方が、よほどデマに踊らされてしまう一例だろう。

 当然実行しなかったが、そもそも正確なナレッジがあるわけではないし、こちらを思って情報をくれたのだと思えば、その娘を責める気にはなれなかった。


 また、静岡に住む姉夫妻から、


『そっち放射能がやばい。迎えに行くから、こっちに避難した方が良い』


 という連絡が来た。

 そもそも道路状況がわからず、こちらは次の日の食料を確保することさえ、ままならない。ここで余計な人間に変に来られても――ということなので丁重に断った。


 ――東海村の原発が危ない!

 ――茨城は福島に近いから、危ない!


 皆まで言うな。

 言われなくてもわかっているのだ。


 現地の人間の不安をいたずらに煽るのはやめてくれ。

『他人の心配』は、『当人の心的外傷』にしかならないのだから。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


・災害時のポイント12

 こういう時こそ虚偽と真実を冷静に見抜こう


・災害時のポイント13

 遠くの親戚より近くの他人

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