3.21以降
職場
大震から、ちょうど一週間が経過した頃、ついに水の供給が復活した。また、まったく気づかなかったが、ガスもすでに使えるようになっていたようだ。これでライフラインが戻ったのだ。
――心の奥底には、嬉々のほかにも複雑な想いがあったが。
翌月曜日。三月二十一日。
私は一週間ぶりに、アルバイト先に顔を出した。私は某スーパーの酒担当に従事していたので、すぐに売場へ向かった。
大量の酒瓶が割れたのを物語る、拭き取りきれていない赤ワインの痕跡。べたつく売場の床にソールが貼りつき、足を取られかけた。
つまり、これからが本当の仕事なのだ。
「うへえ、ウィスキーほとんど逝ったか。山崎、竹鶴、白州……。角瓶は割れやすいから当然全滅。ジョニ黒と赤、バラン、白馬――スコッチもダメ。あっ、ターキーとローゼズ生きてる……バーボンって堅いんだ。だるま……お前も生きてたか」
運良く棚から落ちなかった商品は、段ボールに分けられていたが、ほとんど表面がべたつき、ラベルは汚れ、売り物にはならない状態だった。
さすがに、この状況下でアルコールを求める馬鹿野郎は居なかったので、私はとにかく売場の復旧に尽くした。
なにより、出勤すれば食糧が買える。当面の私の目的は、別のスーパーにできた行列に並びたくないがために出勤するようなものだった。
水が入荷されてきたかと思うと、外国語だらけのパッケージとともに、ガロン単位で入荷されてきた。1ガロンとは――何リットルなのだろう?
ガロン【gallon】
イギリスでは約4.546リットル、アメリカでは約3.785リットル。
日本では後者を用いる。
記号『gal』
こういう商品を見ると、他国の支援がダイレクトに伝わってくる。
そして、積まれたガロンたちが余震で崩れそうだが――
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