第12話:友情・アラステア視点

 バーツがうれしそうな笑みを浮かべているが、演技だろうな。

 内心は複雑な心境のはずだ。

 アマーリエ嬢の名誉は回復されたが、アレグザンドラは大恥をかいた。

 政略結婚をするにしてもかなり条件が悪くなるだろう。


「そんな心配はいりませんよ、王弟殿下。

 アマーリエが王太女になり、王弟殿下と結婚するのです。

 アレグザンドラの利用価値はとても高くなります。

 性格はともかく容姿はいいのです。

 以前と同じように好条件で結婚が可能です。

 こちらの交渉次第では隣国の王太子との結婚も不可能ではありません」


 おい、おい、おい、俺の表情を読んだのか、油断ならん奴だな。

 だが、さすが軍略にも秀でたバーツだな。

 そこまで読んで今回の件に協力してくれたのだな。

 バーツがいたから今回の策は上手くいった。

 もしバーツが権力欲の強い男だったら、今回の件は内乱になっていただろう。

 バーツに負ける気はないが、大きな犠牲を出していたのは間違いない。

 まあ、どれほどの犠牲を出してもアマーリエ嬢を諦めはしないがな。


「また悪い顔をしていますよ、王弟殿下。

 そんな顔をしていたらアマーリエに嫌われてしまいますよ。

 もう少し令嬢受けする笑顔を浮かべてください」


「無理を言うな。

 俺に媚を売るような表情ができるわけないだろう。

 そんな事は肩を並べて戦った事のあるバーツなら知っているだろう」


 バーツも無理を言ってくれる。

 そんなことができるのなら少しは社交をした。

 まあ、魔眼の影響で苦痛だったのが一番理由だが、性格的にも無理なのだ。


「王弟殿下が魔眼で苦しんでいるのは聞いた事がありますよ。

 ですが相手はアマーリエですよ。

 アマーリエなら魔眼の苦しみはないでしょ。

 それでも笑顔は浮かべられませんか。

 それは努力不足なのではありませんか。

 想い人に好きになってもらいたいのなら、苦手な事もやってもらわなくてはね」


「うううううむ。

 バーツはそんな事を言うが、俺はバーツのような色男ではないのだ。

 二十八年もの間、女気なしで生きてきたんだ。

 そんな事を言われてもやった事のない事はできん」


「それをやるからこそ王弟殿下の誠意がアマーリエに伝わるのですよ。

 それくらい努力をしないと、アマーリエに好かれませんよ。

 それとも王弟殿下は力尽く権力尽くでアマーリエを手に入れる心算ですか。

 それだと私も反対に回らなければいけなくなりますよ。

 まさか戦友の私にそんな仕打ちはしませんよね。

 それに、あまりに酷いやり方だと、アマーリエは逃げますよ。

『私に遠慮しないで好きに生きたらいい』と言ったら逃げ出しますよ。

 アマーリエはああ見えて芯が強いですからね。

 それでもいいのですか、王弟殿下」


「うむむむむむ」


 くそ、バーツの奴め。

 お前こそ戦友の俺に無理難題を言っているではないか。

 苦手なモノは苦手なのだ。

 魔獣が相手なら例え竜が相手でもぶちのめしてやるが、女が相手だと、いや、惚れたアマーリエが相手だと、何も言えなくなってしまうのだ。

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